トルネードパンツの開発は、クライミングパンツに求める機能をひとつひとつ見極めることから始まりました。
常識を疑い、なぜ?を繰り返したその先に、求める機能とシルエットを満たす、画期的な「渦状縫製=トルネード」という形が待っていました。
finetrackパンツに備わる大切な機能のひとつにリンクベント(ベンチレーション)があります。フィールドで脱ぎ着できないパンツには、着ながらにして蒸れをベントする(抜く)機能が有効だからです。創業以来、全てのパンツにこの機能を搭載してきました。
ですがトルネードパンツには、このベンチレーションがありません。
「勇気を出して掟を破ることにした」と企画開発者の中島はいいます。
クライマーは、重力に逆らって岩に取り付き、ときにクラックに身体を挟み、摩擦しながら攀じ登ります。
「体勢や角度によっては、どんな小さな機能パーツであっても肌に当たることがある。そのちょっとした痛みが、動きに悪影響を及ぼしてしまう」。
さらに、ベンチレーションを開閉するジッパーを取り付けるには、まっすぐな縫製ラインが必要。それも「伸縮性を損なう一因になる」。
とにもかくにも動きを優先し、機能を絞る、という選択でした。
裾のコードロック、ウエストの調整バックル。これらも同じ理由から機能を絞ることを選びました。
こうやって、ひとつまたひとつと仕様がシンプルになっていきました。
そうすると、見えてきたことがありました。
なかでも「ベンチレーションをなくしたことは大きかった」と中島は振り返ります。
通常、ベンチレーションは、脇の縫製ラインに沿ってファスナーを設けます。
そのベンチレーションが不要となると、縫製ラインが脇にある必要もない。つまり・・・より自由自在な縫製パターンの創造が可能になったのです。
開発の焦点は、パンツの形を創るパターンメイキングに移りました。
「生地とは、ペラペラの紙のようなものです。もちろん十分な伸縮性はありますが、あくまで平面。それに対し、脚は曲線で、クライミングのムーブは大きく多様です。どうすれば、曲線と動きに添う立体が創れるか。それがパターンメイキングの難しさです」。
クライミングジムや山で遊びながら、開発のヒントを探る日々、周囲を観察しながら、
「この動きがストレスなくできたら」と目安にしたムーブがありました。
脚を高く上げ乗り込んでいくハイステップやヒールフック、膝を深く落とすドロップニー……。
「これらの動きをストレスなくできるクライミングパンツなら間違いなくいいものになる、という確信があった」と言います。
約3ヶ月間、形を探る時間が長く続きました。
股下がたっぷりと深い「サルエルパンツ」のような形状、相撲の「まわし」のような股ぐり・・・。民族衣装、武道着や作業着、潜水着まで、あらゆるパンツの情報を集め、構造を探りました。
「生地に余裕を持たせれば、大きな動きには対応できますが、反対に屈んだり身体を折り畳んだ際には邪魔になってしまう。ダーツを多く取れば必要な立体は作れますが、そのぶん縫い目が増え、伸縮性の低い構造になってしまう」。
スリム、かつシンプルなパターンが求められていました。
糸口は、身近なところにありました。finetrackウエアの袖の立体パターンに採用していたトルネードスリーブ。腕にフィットしながらヒジの曲げ伸ばしをスムーズにする螺旋状のパターンです。これを脚に応用してはどうか。
屈伸を繰り返すヒザや大きく駆動する股~大腿部に必要十分な運動性(生地の距離)を持たせながら、カーブのふくらみ、くぼみ、それらを緻密に組み合わせてパターンを練りました。そして、フィールドでクライマーたちの動きを観察しては、身体に干渉しない箇所を探り、縫い目の位置を見極めました。
こうして長い長いトンネルをくぐりぬけた先に、見たこともないパターンのクライミングパンツが出来あがりました。
脚を履きいれる筒の部分を、渦状に生地を縫って創りあげるトルネードパンツ。
一筆書きのような縫製ラインのカーブをご覧いただくと、いかに型破りなパターンメイキングであるか、お分かりいただけると思います。