ご存知の方も多いと思うが、「沢登り」は日本の文化だ。海外ではもっぱら、沢を下る「キャニオニング」が主流である。
海外の沢を見て来るとよくわかるが、日本の沢のほとんどは、どこかに登るための弱点を残してくれていることが多い。
そんな日本の沢で遊ぶものとしては、「登る」ことにはこだわり続けたい。
しかし、沢登りではどうしてもアクセスできない未踏個所が存在するのも事実。
黒部川黒薙川支流の漏斗谷はそんな谷の一つだ。標高差1500mほどを一気に落としながら、水量豊富な長いゴルジュがあり、登りではまとめて大きく高巻くしかないポイントがいくつもある。
下ることに特化し、水流への対処も想定したキャニオニングの技術は、そんなゴルジュの突破手段としては非常に有効だろう。一つの手段にこだわらず、「登り」と「下り」どちらの技術も柔軟に使うことで、これまでアクセスできなかった場所に、たどり着けるのではないか。
今回、あえて水量の多そうなタイミングにこのゴルジュの完全解明を狙って、2泊3日で漏斗谷~北又谷の継続のキャニオニングを試みた。
【遡行日】2017年9月22日~25日
初日は北又ダムまでタクシーで入り、朝日岳を経由するコースタイムで10時間近いアプローチ。
登山道途中でナラタケの大群落を発見して、晩御飯のおかずとした。
朝日岳山頂付近は紅葉が始まっていた。
長栂山の先、2071m小ピーク付近から、漏斗谷に下降。源頭付近はかなりえぐい藪漕ぎ。藪漕ぎ5級クラスはあるだろう。
漏斗谷1750m付近でよいビバーク地を見つけ、初日は泊とした。
2日目。3段30mの滝からキャニオニング開始。
序盤は短いゴルジュが多く、明るい谷。
まだかなりの上流部だが水量は多くしっかりとした釜を持った滝が多い。
18m滝。そのままだと吸い込まれそうな形状なので、若干上った右岸からラペルし、釜を泳いで抜ける。
通常のクライミングや沢登りで使用するラペル技術では、着水後に下降器を解除するため、沸き立つ釜に向かって下降する時など、水流に捕まるリスクが高い。
キャニオニングで使用するラペル技術は、ロープ長さを調節して、着水と同時にロープから抜けてしまうことが特長だ。
5mくらいの高さの滝は、積極的に飛込でクリアしていく。
しばらく平流になった後の大釜を持った8m滝。ここから長いゴルジュが始まった。降りてみてわかったが、ここは飛び込めた。オンサイト下降だと、そういった判断がなかなか難しい。
このゴルジュは水路状で、水量も非常に多い。流されたらヤバい渓相で単純にラペルもできない。慎重にルートファインディングをしながら下降していく。
沸き立つ釜も、思い切りよく飛び込んで、ボイルを超える。
釜からそのまま次の滝につながるようなところが、難しくも面白いところだ。落ち口に立てるのか。それが難しければ、ガイドラインを使うのか。
3日目。朝一からキャニオニングならでは攻略可能な長いゴルジュだ。滝と釜が連続する渓相で、流れを慎重に読みながら下っていく。
視界の限り、滝と釜が続く光景は圧巻。
沸き立つ釜にそそぐ12m滝。下って振り返ってみたら、息をのむほど美しい滝だった。この谷一番のビューポイントだろう。
12m滝を超え、倒木のかかる6m、1mの飛込を越えると、ようやく漏斗谷の核心は終わったようだ。あとは簡単な滝をいくつかこなして北又谷と合流した。
北又谷は、とにかく水量が膨大。以前、かなり増水したときに遡行したことがあったが、その時と比べても今回はさらに水量が多い。
「女性的」と形容される北又谷だが、今回はそれどころではない。流されるとヤバいところが連続し、気を抜くところがなかった。
とはいえ、先が瀞場になっているところは積極的に流れ下るので楽だ。この直線水路は、昔沢登りで苦労した記憶があるなあ。
沢登りではポイントになる又右衛門滝、大釜の滝、魚止めの滝はすべて飛び込みで秒殺だった。
滝と釜を連続させながら、一気に標高を落としていく漏斗谷。
標高差こそ小さいものの、特に今回は水量が強烈だった北又谷。その継続は、国内でも屈指のキャニオニングルートといって間違いないだろう。
漏斗谷はゴルジュ内はおそらく初通過。
詳細なトポを作成してみた。
夏の沢はもっぱらタープでゴロ寝が好きだが、秋になり、標高も高い沢になるとやはり閉鎖空間の暖かさがうれしくなる。
ツエルトIIロングは二人で使用するには十分な居住空間があり、沢登りの装備があればほかのポールなどなくてもどこでもきれいに張れるのもよい。テントと比較して、練習は必要だけどね。