今年極西ネパールに聳える「道なき山」。未だ誰も頂を踏んだことがない未踏峰への初登頂を目指す、遠征レポートの第3弾です。
許可という社会的障壁に阻まれ、登頂への道を絶たれた隊は、失意のなか、上部キャンプへと偵察行を続けます。
未解決であったベースキャンプまでのアプローチは無事に解決した。
未踏峰が目の前に大きくたたずんでいる。
私たちは登頂へのルートを探り、上部キャンプへと移動を開始した。山に近づくにつれ、頂上までのルートが徐々に鮮明になってくる。ようやくここまで辿り着くことができたのだ。私たちはいつか登頂することへの強い想いとともに偵察に向かった。
<これから偵察に向かう>
数少ない天候の良い日を狙って上部キャンプへと荷物を上げていく。
最初の登攀を終えると、急に悪天候に襲われた。上部は間違いなく吹雪だろう、黒い雲が辺りを覆い隠している。これから向かうルートも先が一切見えない。すぐ手前に見えるのは、左に岩塔、右には懸垂氷河。そしてその間をものすごい速さで岩が滑り落ちていく。
天候もさらに悪くなってきた。不安な思いが隊の進行を妨げた。
私たちはそれに打ち勝つ思いで、岩塔方向にロープを伸ばし、次々と待ち構える雪壁を超えていった。
<岩壁の登攀>
<待ち構える雪壁の登攀>
上部キャンプ地に着くころには既に真っ暗だった。
また上部キャンプ入りしてから、予想以上に吹雪が強くなってきた。
それは時間を追うごとに強くなり、設営したテントが突風によって変形して半分くらいのサイズにまでなっていた。
この場所に合計で3日間過ごすことになったが、食料は底を突き、1人用を4人で分け合うまでに。
あれから天候は一向に良くならない。私たちの目標は、全員で無事に下りることへと移り変わっていた。そして逃げるように下山。長時間行動の末、どうにか命からがら下部キャンプ地まで下ってくることができた。
<吹雪の上部キャンプ>
数日後、あの悪天候はどこかへ行き、今は晴れ渡った青空を拝むことができている。
振り返れば依然として未踏峰が大きくたたずんでいた。
悔やまれる思いはあるが、どこか清々しい気持ちもある。やれることは全部やった。そしてあの環境から脱出できた安堵感を抱きながら下部キャンプ地を後にした。
あの偵察の恐怖から数日が経過すると、私たちにある思いが芽生えていた。
「このままでは日本に帰れない」。
わが隊は当初から目的の未踏峰の登頂を第一目標としていたが、許可と天候の問題で登頂が叶わなかった。ヒマラヤの厳しさを知ったという意味では大きな成果があったのかもしれないが、目に見える成果がなかった。私たちはこの事実を受け入れられなかった。
こうして、私たちは偵察後に周辺の山域でも目立っている「シュワルツ・ワンダ・スピッツェ峰」を登りに向かったのだ。
さらにこの山を見た時、私たちの中で一つの目標が立った。それはこの山が携える北壁をダイレクトに登って登頂することである。非常に大胆な計画の立て方であるとも思った。しかし、未踏峰を登頂するために日々訓練してきたことを何処かで応用したい、そして未踏峰を次に確実に狙うためにはこのような経験が間違いなく必要であるとの思いからであった。
アタックの日。
私たちは最小限の装備で北壁の取付きへと向かった。取付き部分は多数雪崩の形跡が見られる。一部クレバスのように中が空洞となっている箇所も見られた。私たちは安全のため常にロープをつなぎ、斜度70度の雪壁を登っていった。
快晴の中、快適な登攀であった。偵察とはまるで対照的である。終始体力に物を言わせる登攀となったが、無事に登りきることができた。頂上からは西ネパールの山々が一望できた。そして、あの未踏峰の姿も・・・。
ヒマラヤの壁をダイレクトに登ることができた達成感とともに、技術的な登山能力が上達した気がした。
一方であの山をもう一度見ると、今になって悔しい気持ちが湧き上がってきた。
<頂上にて撮影>
<登攀ルート(赤線)>
アウターシェル特有のゴワゴワ感。それは登山をする者には「仕方がないもの」として受け入れられてきた。このゴワゴワ感は、特にクライミング・ラッセル等の身体を大きく動かす時に大きなストレスに感じる。
エバーブレス® アクロは伸縮性・着心地を追求しゴワゴワ感を取り去った。この「仕方がないもの」に向き合い克服するモノづくりは、どこか登山の本質と似ていると感じるのは私だけではないはずだ。
極西ネパール登山隊2017
同志社大学体育会山岳部
創部92年の伝統を持つ。極西ネパールにおいて、1960年アピ(7,132m)初登頂、1963年サイパル(7,031m)初登頂と西ネパールの主峰ともいえる山々の初登頂に成功。また近年でも、西ネパールの地域において多くの足跡を残している。
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