見上げても、はるか天頂付近にわずかに空を望めるのみ。
側壁は、100m以上も垂直以上の傾斜でそそり立ち、時には覆いかぶさって洞窟のようにすらなっていて、一切の逃げ場はない。
数100mクラスの巨大な滝はないものの、水が水平に流れるところはほとんどなく、ある意味すべてつながった一つの巨大な段瀑といえるかもしれない。
その中に、氷河から流れ出した氷のように冷たい膨大な量を水を流し込んでいる・・・
そんな周囲から圧倒的に隔絶された異様な空間、Gloomy Gorge(グルーミーゴルジュ)はそんなところだった。
これまで見た最恐のゴルジュであったことは間違いないだろう。
「世界最難のキャニオニング課題」として知られるこのゴルジュはニュージーランド南島、Mt.Aspiringの西面にある。2012年にフランス人チームによって偵察とルート工作が行われ、翌年、前年の工作チームの一人を含むニュージーランドチームの4名により、夜通し20時間の連続下降によってfirst descentが行われた。そして、その後のリピートは全く行われていない。
このGorgeを下降することは、計画の発案者である大西さんの3年がかりの執念の計画だった。
2015年にこのゴルジュの中を上からの偵察で見て、それでもひるむことなくここを下ろうと思い続けてきた思いの強さには本当に敬服してしまう。
そして、この計画に声をかけてもらったことに、感謝。
■遡行日:2018年3月11日~15日
■3月12日
夜明け前にスタート。French Ridge Trackを1100mまで登り、右手の藪斜面を下ってGloomy Gorgeへ向かう。ワンポイントのラッペルで河原に降り立ち、間もなくゴルジュが始まった。膨大な水量だ。
一発目のラッペル。1st descent時にセットされた支点は生きているようだ。
ゴルジュはどんどん深く、細くなって水路上の様相に。ラッペルで流水中に着水し、泳ぎ抜ける。
ヤバい滝が出てきた。落ち口上での微妙なトラバースを決める。
厄介なのは、水面に降りることができない水路状のゴルジュ。
Gloomyではこれが非常に多く、トラバースするしかないのだが、荷物が重いので荷下げが必須となり単純なラッペルよりも非常に時間がかかった。
今回、支点とフィックスがかなり生きていたがオンサイト・ルート工作なしでの下降はほとんど不可能課題に思える。
再び、左岸側をトラバース気味のラッペル。
しかし、着水してから先の岩に上がる部分が、流されるとシーブに捕捉されそうでかなりリスキーだ。
やはり、ヤバい滝が登場。落口で微妙なトラバースを決めなくてはならないが、ビレイしているとはいえ、流されたら引き上げることは非常に厳しい。
細心の注意を払って試行錯誤しながら水流中のスタンスを探り、何とかトラバースに成功。トップの彰さんをして、最も恐ろしかったポイントだったと。
40m程度のラッペルののち、水の流れを読み切った先行の彰さんが白濁する釜を泳いで越える。
しかし、2ndのJasminが危うく落ち口に向かう流れに乗りかけて肝を冷やした。この後も60m位の滝が続いているのだ。
水路状ゴルジュはさらに厳しくなっていく。水線にはとても降りられない。
ひたすらのトラバース。
そしてチロリアン。
落ち口の小さな岩にいったん集合。まだまだ水線には降りられそうになく、トラバースが続く。
■3月14日
ゴルジュ内3日で抜けれると踏んで食料は二晩と予備食くらいで残りは出口にデポしてきていた。しかも、明日は雨予報。今日中に抜けたいところである。
朝から洞窟のようなゴルジュに降りていく。
厄介なトラバースが続き、いったん水面まで下りて、わずかな岩の上に全員集合。
そして、一段と暗い、まさに洞窟のようなゴルジュに降りていく。
このゴルジュ、下るにつれて開けるどころかさらに細く、深く、側壁が切り立っていくのだ。
この洞窟のようなゴルジュからは、冷たい風が吹きあがってきて、まさに地底に降りていくような錯覚を覚える。
■3月15日
ゴルジュ内4日目。レッジからのラッペルで始まる。
ここからの水路がトラバースは困難で悩ましい。流れの先に上陸できそうな地点が見えたので、流れ下る作戦にする。
流れたまま一段滝落ちして、右岸の岩棚に上陸。
右手の壁を一段上がってみると、狭いゴルジュに2つの巨大CSがはまり、その下を滝となって一気に高度を落としていた。
とても水線を行ける状態ではない。
谷に挟まる2個の巨大CSの上を通って、水路に向かって下降していく。
着水して流れの速い水路を泳ぎ抜ける。
ゴルジュ出口だろうか。開けた空間が先に見えてきているが、まだまだ気は抜けない。
ようやくゴルジュを抜けた!