隊員10名、約2ヶ月半もの長期にわたるK2遠征。必要となる装備と食料も数百キロにおよびます。できるものは現地調達するにしても、まだまだ大量の荷物を日本から持っていかなくてはならず、それらの荷物はパキスタンへ事前に送っておく必要があり、小谷部たちは2月にその手配を済ませました。隊にとっても一大イベントだったという荷物の発送は、今回の遠征においてどんな意味を持つものなのか、小谷部に聞きました。(finetrack編集部)
今回発送した荷物は、順調にいけばベースキャンプまで荷ほどきしないものがほとんどです。それでもある程度のトラブルは付き物で、特にポーター1人が運ぶ荷物の重量が、現地での計量の際に規定重量(25kg)を超えているとみなされると、急いでパッキングをやり直す必要があります。
そうなると、事前に作成したリストとそれぞれの荷物の中身に食い違いが生じ、ベースキャンプで必要な装備を捜す手間が増えてしまうため、発送前の荷造りの段階からトラブルを未然に防ぐことが重要です。
また、K2へはこの時期、世界中から遠征隊が集まりますが、ほとんどが南東稜と南南東リブのルートに集中します。そんな中ルート工作ができるのは、1つのルートに1つの隊だけ。K2のような過酷な高所登山では、シーズン初めに工作されたルートを他の遠征隊たちも活用するため、後続隊は他チームが工作したルートを使って登ることになります。せっかくK2に行くのに、すでに作られたルートを使って登るのでは面白くありません。だから早くベースキャンプに到着することは、自分たちでルート工作を行い、充実した登山活動を送れるということも意味します。
また、C1C2は狭いキャンプ地に多くの隊がテントを張るので、いち早くキャンプ地にたどり着き、条件の良い場所にテントを張れるかどうかで、隊員たちのリカバリーの充実度も変わってきます。
これらのことを考えると、荷物の事前発送を他の隊よりも早く、戦略的に行えるかどうかは、登山活動そのものに関わることにもなります。そのために今回は、過去2回のK2遠征よりも2週間早い出国を目指し、荷物の発送も前倒しに行いました。
そういう意味では、今回の作業からすでにK2遠征がスタートしていると言えるかもしれません。
荷物の中身に関しては、私の過去2回のK2遠征経験から改善した部分が2点ありました。
1点目は、登攀用具の数量の見直し。経験のない場所へ行く際は、つい予備が増えてしまう登攀用具ですが、これまでの遠征経験で登頂までのルート工作やそれに必要な登攀用具はしっかり把握しています。だからこそムダを減らすことで軽量化を試みました。
2点目は、食事メニューについて。味付きごはんやおかずは、長い遠征では意外とすぐに飽きて、のどを通らなくなってしまう隊員が大勢います。そこで今回は、白ご飯に多種のふりかけをメインに食料を調達。実際に過去2回ではこの組み合わせが、隊員たちの間でも一番人気のものでした。
登攀用具の重さも食事内容も、平地ではなんでもないことのように思えますが、高所では大きなストレスとなってしまいます。ストレスを少しでも減らしたいと、上記の2点を隊員たちと話し合い、装備内容を決めました。
過去2回の遠征ではそれほど準備に神経を使うことはなかったのですが、自分が隊長となった今回は、やはり感じる責任の重さも違います。装備内容については比較的短期間で確定させることができましたが、隊員それぞれが納得できる遠征内容にするためにも、発送手配や梱包ミスの有無にはかなり気を遣いました。限られた時間の中で、とにかく機械的に作業を進めたので、作業中はK2に思いを馳せる時間もなかったというのが正直なところです。
そのおかげで発送作業は無事に終わり、隊の先陣を切って出国した荷物は現在、パキスタンのエージェント事務所に保管されています。そうなるとK2遠征の計画もいよいよ本格的に走り出したと言えます。しかし登山の許可証やビザの取得など、雑多な手続きが残っている中、それらが終わるまでは「自分が何か忘れていないか?」という心配の方が大きく、まだまだ心休まるときがありません。5月の中旬にはビザの取得手続きも終わる予定なので、そうすればいよいよ出発に向けて自分の気持ちを整える段階に入れるのではないかと思っています。
■荷物の発送方法について聞きました(finetrack編集部)
大量の荷物を一番安価で送れるのは船便ですが、これだと輸送に2~3ヶ月もかかるので、何かトラブルが発生した場合のリカバリーが非常に厳しいという難点があります。今回小谷部は、船便よりは高いですが航空便より安く、2週間前後でパキスタンへ送れるというエコノミー航空(SAL)便を利用しています。
SAL便は航空機の空きスペースを利用するので、空きスペースがなければ余計に日数がかかってしまいます。そこで、何かトラブルが発生したときの対処期間も考慮し、確実に荷物を届けられる出発の3ヶ月前となる2月に隊員・事務局員が集合し、発送手配を終えたそうです。