「試練と憧れ」と称される剱岳だが、清水と私にとっても「試練と憧れ」の対象となりつつある。昨年の夏には真砂沢を拠点に六日間の登攀合宿、秋には馬場島起点のチンネ登攀をした。
この夏の休暇を過ごす場所も剱に決めたが、「開拓の余地がない」と書籍で断言されるほど、あらゆるところに魅力的な登攀のラインが描かれており、計画を立てるだけでも頭を悩まされた。
今回は5泊6日予備日1日の余裕のある日程に、剱尾根主稜、八ツ峰Ⅵ峰Dフェイス、剱本峰南壁と、三つの課題を掲げて入山することに。
結果としては、剱尾根で雨に振られて以降、天候の回復が見込めず、4日目に下山。
結局どれも登れず仕舞いではあったが、悔しさよりもリベンジの意欲が湧いてくるのも「試練と憧れの山」故なのだろう。
■アクティビティ日:2018年8月13日~16日
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上に記載のある昨年の剱岳での遊び記録は、こちらからご覧いただけます。
「ツルギで遊ぶ6日間~剱岳 源次郎尾根-八ツ峰-北方稜線」
「剱再訪 ~チンネ左稜線登攀~」
(fun to track編集部)
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■1日目
拠点となる熊の岩までは初日のうちに上がってしまいたい所だが、重たい荷物を背負い、海抜0m近い自宅から標高2900mの熊の岩まで一気に上がるのは正直しんどい。
日程にも余裕がある為、立山ケーブルカーの最終便に乗り込み、ガラガラの室堂にたどり着いたのは5時ごろ。誰もいない遊歩道を通り雷鳥沢キャンプ場を目指す。
下界から持ち込んだ温いビールで乾杯して、初日は終了した。
■2日目
今日は熊の岩まで行けば良いだけだというのに、「5時に歩き始める」と清水。
山岳部出身者らしいストイックさには学ばされることも多いが、ここは我慢してもらい6時起床。
のんびりとパッキングを済ませ、賑わう雷鳥沢キャンプ場をあとにする。
剱御前小屋を越えるとガスも抜けて剱岳が全容を現した。
剱沢の山岳警備派出場で、長次郎雪渓と登攀対象の状態を確認する。
長次郎は雪は例年と比べ少ないが右俣は問題なし、剱尾根に関しては、取り付き近くのデルタフェイスの崩落に注意とのことだった。
剱沢小屋からしばらく下ると雪渓が現れる。
アイゼンを履いて15分ほどで長次郎谷に出会う。
そこから1時間半ほどで熊の岩。
お盆明けの平日という事もあり、熊の岩はがらがらで、乾いた快適なスペースを確保できた。
翌日に備えて打ち合わせをし、暗くなる前に就寝する。
■3日目
3時起床。4時行動開始。
何箇所か雪渓が途切れているところがあったが、剱沢で聞いた通り危険なスノーブリッジは崩落済みで、危険箇所もなく30分とかからず池ノ谷乗り越しへ到達。
少しの休憩を挟んで、ヘッデンなしで歩ける明るさになってからR10を目指して下降を開始する。
池の谷ガリーは相変わらずの悪谷で、どこ踏んでも落石が発生する様な状態。
しばらく下ると右手にチンネ、三の窓、小窓の王(発射台)と目印が続く。
三の窓より下へ行くと、トラックサイズの岩がゴロゴロと転がっているが、どれもなぜ崩れないのか不思議なぐらい絶妙なバランスを保っていた。
雪渓の状態もギリギリだろうか?
「ダメだったら諦めてチンネでも登ればいいよ」なんてお互い心にもない事を口にしながら下降して行くが、このガレ沢を登り返す事なんて考えたくもない。
途中、エスケープに設定しているR2の姿を確認することが出来た。
ズタズタの雪渓の上は落石だらけで、あまり長居したいところではない。
斜度が緩くなってきたら、取付きとなるR10を見落とさないように慎重に歩みを進める。
10番目のルンゼを意味するR10だが、どれをルンゼと数えるのかなんて、現場では判断がつかないのが正直なところだ。頼りになるのは事前にリサーチした情報。
デルタフェイスを通過してすぐ、左手側に顕著なコルを有すルンゼが現れた。
R10で間違いないようだ。R10の雪渓は消滅していたが、問題なくコルEに到着。
剱尾根の稜線は猛烈な藪漕ぎとなる。
尾根伝いに、上に上にと進んでいけば、ルートファインディグ自体は難しくはない。
夢中で藪と格闘していると、剱尾根の核心「門」が見えてきた。
門の手前に立ちはだかる岩壁が、コルCからの2ピッチ。
核心となる1ピッチ目は、左手クラック伝いに上がって行き、残置スリングのあたりから右側へトラバースする。
続いて門への取り付き。下向きに開いた大きなクラックから登り始める。
悪いことにここで雨が降り始めた。
残置のスリングを使いながらもリード清水が突発。
2ピッチ目は、2級程度のスラブであっけなく終わるかと思いきや、最後がいやらしい下りトラバース。念のためロープを出しておくのが無難だろう。
中間地点となるドームの頭に着く頃には本降りの雨となってきた。
参考にしたトポ上ではこの先2級から3級+の岩場が150-300mほど連続するようだ。
ロープさえ出さなければそれほど時間も掛からないところだが、我々の実力で確保なしに雨の中突き進むのは危険と判断。
残念だがここで撤退を決める。
コルCからは、R2を3ピッチの懸垂。
取り付き前に撤退ルートを確認していたつもりだったが、思っていたよりも雪渓の状態は悪かった。
雨水と雪解け水が流れるスノーブリッジの下を、足元をびしょびしょにしながら通過し、途中から雪に阻まれ進めなくなった為、仕方なしに雪渓上に戻る。
雪が薄くなっている部分もあり、念の為ロープを結び直して下ることにした。
その後間もなく出合いに到着。絶対に登り返したくないと話していた池の谷ガリーを登り返す。
長次郎雪渓を下り熊の岩に到着したのは18時を過ぎてからだった。
天気予報では翌日は暴風雨。翌々日も雨が残るということで、翌日の下山を決めた。
■4日目
朝から大粒の雨がテントを叩いている。
雨の弱まった隙にテントを撤収し、一昨日よりもうんと小さくなったような気がする長次郎雪渓を下り、室堂を目指した。
連泊の登山で気をつけたいのが靴擦れ。
長時間の行動で靴内に大量の汗を掻くと、それが靴擦れの原因になってしまう。スキンメッシュソックスは汗を肌から離してくれるので、靴擦れを防止することができる。
個人的には指の間に溜まる汗が気になり、5本指のドライ感が気に入っている。