海谷山塊海川不動川は最難関の泳ぎ沢の一つに数えられる険谷だ。白い龍と黒い龍が住むと伝えられる不動川ゴルジュ。その深部に巨大なアンモナイトがあるという。秋の気配を感じる三連休、仲間とともに不動川へ向かった。
■アクティビティ日:2019/9/14~2019/9/16
9/14粟倉集落-不動滝出合-下部ゴルジュ 9/15下部ゴルジュ-アブキの河原-上部ゴルジュ-アブキの河原 9/16アブキの河原-粟倉集落
粟倉集落から平凡な沢伝いに1時間ほど、両岸が屹立したゴルジュが目の前に現れる。出合には不動滝が懸かり、暗いゴルジュ内に飛沫が立ち込めていた。
気持ちの悪い巻きをこなして、遡行可能域へ降り立つ。ゴルジュ内には断続的に滝が懸かり、いずれも手強く面白い。
下部ゴルジュ核心の10m滝は右岸をエイドで越えて荷揚げ。途中、リングボルトが吹っ飛びヒヤリ。
延々と続くゴルジュは巻きを許さない。泳ぎ、クライミング、エイド技術、そのすべてを駆使してただひたすらに滝を突破していく。
下部廊下の中程、ゴルジュの幅は狭く、飛び出す礫は人ほどの大きさになり、異形を極める。この礫は鱗、側壁は黒龍で水流は白龍。ゴルジュに龍をみる。
終わりの見えないゴルジュをどこまでも進む。
遂に幕営予定地のアブキの河原まで辿り着けず、岩棚でビバーク。狭い夜空には中秋の名月が昇り、爛々とゴルジュ内を照らした。
翌朝、いきなりの泳ぎも水流に阻まれ、滝に取り付けない。エイドを交えて巻き上がる。
アブキの河原、光が注ぎ、岩魚が泳ぐ楽園。束の間の安息地だ。
一息ついて上部ゴルジュへ。陽を浴びる気持ちの良い遡行が続く。
遂に辿り着いた。流れを二条に分かつ滝。あるはずだ、流れの間、あの洞に。
ひと抱えほどの大きさのそれは、滝の懐に鎮座していた。異質なその空間に息を呑み、長い時間、茫然と眺めていた。
巨大なルーフの懸かる滝を越え遡行を終える。
帰りはキャニオニング。クライミングと飛込みを駆使して、慎重かつ大胆に降っていく。
不動川では驚くべき景色と、充実した遡行を楽しむことができた。海谷山塊の山々は高くとも1500mほどである。しかし、何故こうも強く惹きつけられるのだろうか。フォッサマグナのなせる業なのか、不思議な土地である。まだ見ぬ景色を求めて再訪したい。
秋の泳ぎ沢では保温性能と運動性能のバランスが重要だ。しかし、従来のウェットスーツでは保温性能を求めると、運動性能が落ちる。結局どちらかを犠牲にして、幾度も酷い目に遭ってきた。しかし、ドライレイヤー・ラピッドラッシュ・フラッドラッシュを重ね、寒ければその上にベストタイプのウェットスーツを重ねるというレイヤリングに至って以来、泳ぎの沢で困ったことがない。水中、陸上どちらも滞在時間が長い沢登りにおいて脱ぎ着して体温を調整できる点もウォーターレイヤリングの大きな強みだ。