著名な洞窟探検家・吉田勝次さんに連れられて岐阜の某洞窟に潜ったのが、人生初のケイビングだった。吉田さんのためのケイビングスーツを作成するにあたってこのアクティビティの特性を知るためのものであり、半分仕事だった。次は自力&プライベートで、情報のあまりない洞窟に潜りたいものだと思ったのだが、洞窟の情報など、そうそう簡単に入ってくるものではなく、実現していなかった。
きっかけは、思いがけず転がり込んでくるものだ。偶然知り合った友人がケイビングをやっており、しかも潜りたい洞窟があるという。こうして、2度目のケイビングが実現することになった。
ターゲットは、ネット上に上がっていた動画から、その友人の知人が洞口を見つけた、という奈良の某洞窟。
「結構水が流れているらしい。」「水没している箇所があるかもしれない」「最深部に滝があるらしい。」ってことくらいしかわからず、トポなどももちろんない。
最深部の滝も、登れそうならば登ってしまおうと、ギアも自分たちで考えてセレクトし、いざ洞窟に向かった。
アクティビティ日:2019/11/10
洞窟の入り口手前は5mくらいの滝になっており、それを登ると入り口から水が流れ出ている洞口が見えた。パートナーは以前偵察に来ており、その時よりはだいぶ水量は少ないとのこと。
ケイビングにおいて恐ろしいことは「詰まること」、そしてそれ以上に、「道に迷って出られなくなること」だ。
道迷い対策として、沢登りの遡行図を書く要領で、地図を作りながら進むことにした。
加えて、一気に奥には突入せず、まずは空身で入って、入り口との間を往復しながら奥へ進めるルートを探して行く作戦にした。
洞口から先、穴は左にカーブし、一気に暗闇の世界へ。かがんで通れるくらいの穴が続いていて、足元はきれいな水流が流れていた。風化した石灰岩とグアノ(コウモリの糞)が混じってドロドロの洞窟も多いと聞くが、ここはきれいだ。
天井に見える黒い影は、近づいてみると眠っているキクガシラコウモリだった。
竪穴の支洞を見送り、先へ進むと浅い淵状になっており、しかも天井がどんどん低くなっていく。ムム、水没かと思ったが、匍匐前進で何とか通過することができた。
その先はホールで、3本の支洞。
左はすぐに、奥は少し進んで行き止まりになった。右の穴だけが先に進めることを確認して、いったんギアを取りに入口へ戻ることに。
こんな風に何度も行ったり来たりすると、次第に洞窟の地形がなじんでいくようで、道迷いの恐怖はだんだん消えていった。
取ってきた道具を今度はホールに残置。右の穴を進んでいく。
少し進むと、前方が落ち込んでいる。覗き込むと段差は2mくらいで、天井の広い通路に飛び出した。
そこからは登り基調になり、再び狭いところを通過する。
すると、天井の高い空間に飛び出した。これが最深部にあるという滝か。上の方が暗くてよくわからないが、高さは10m以上はありそうだ。
滴る水が、長い年月をかけて作ったのか。直径20㎝くらいの丸い穴の中に、小さな穴がいくつも空いているという、水が穿った面白い造形が見られた。
水量が少なかったせいか、心配していた水没箇所はなかったようだ。滝もほとんど枯れている。
観察してみると、登れそうと判断。途中のホールに置いてきたクライミングギアを取りに戻ることにした。
途中、入り口と出口を見てつながっていることを確認していた別の支洞を通ってみた。狭い空間を抜けるので荷物があると厄介だったが、ここだけやけに岩が白くてきれいだった。
ギアを装着して、いざ登攀開始。カムでランニングを取りつつ、5.8くらいのチムニー登りで高度を上げていく。
2ポイントのエイドを交えて天井につかえるところまで15mほど登ってみると、狭い隙間を抜けた先にさらに広い空間が広がっていた。これはすごい!
パートナーには、ユマーリングで登ってもらう。
その上の広間は、天井こそ高くはないが、広さはこの洞窟で一番広いホールだ。
登り基調の広間の奥は、まだ続いているように見えた。
その空間の先の支洞を探索し、すべて行きどまっていることを確認。ここが最深部だろうというところで引き返すことにした。一回目のトライで最奥まで到達できたので、大満足の結果と言えるだろう。
滝は懸垂下降でクリア。
まっすぐ戻ったら、入り口はあっという間だった。
改めて作図した地図を見ても、水平距離にしたらたかだか100mもないくらいのところで、1日ドキドキしながら遊んでいたことになる。
ケイビング、なかなかヤバい面白さのアクティビティだ。
ケイブスイミングの可能性もある洞窟だったので、肌面にはドライレイヤー®ウォームのロングスリーブとタイツを着用し、その上にセミドライのウェットスーツ、アウターとして、テスト試用のケイビングスーツ試作品を重ね着した。
結果としてスイミングまではなかったが、冷たい水も気にならずウェットも着脱しやすく、ちょうどよいレイヤリングだった。