糸は愛知で生まれ、加工は北陸、裁断は京都、縫製は山陰・九州……といった具合に、ドライレイヤー®は、糸づくり、編み、染色・加工、裁断、縫製と、一つひとつの工程ごとに日本各地を旅して製品になります。
各地には、地場産業で蓄積された技術があり、産地の工場だからこそ叶う性能と品質があるからです。
「ドライレイヤー®ベーシック」のリニューアル開発も、そうした技術に支えられています。
進化を創った開発ストーリーを、染色・加工の現場、北陸・福井からお届けします。
機能が向上し生まれ変わったドライレイヤー®ベーシック。その進化の舞台となった場所が、福井県福井市にあります。九頭竜川の下流のほとりにあるサカイオーベックス二日市工場。長年ドライレイヤー®の耐久撥水加工を手掛けてきた染色加工工場です。
[染色加工機械。ゆっくりと内部の温度・圧力を上げていく]
工場の中は「企業秘密の固まり」と称されます。さまざまな染料、触媒、バインダー(結合剤)などの薬剤が調合され、生地の精練、漬け込み、加熱や加圧、冷まし、乾燥……という工程行われています。加工を行う機械は、バス1台ほどもある大きさ。そこかしこから、機械の中を回る水流や蒸気の音、生地を均一に伸ばして送るローラーの回転音が聞こえています。なかには、8時間かけて機械の中で加熱・加圧冷却を繰り返す、といった気の長い工程もあり、1日24時間、休むことなく稼働しています。
生地に「耐久撥水性」を付与する加工は、ドライレイヤー®にとって最も大切な工程のひとつです。汗冷えや肌のべたつきのないドライ感と、その耐久性を決定づけるからです。繰り返しの使用や洗濯で容易に落ちてしまうような撥水性能では、安全で快適な行動に貢献できません。そのため、これまでも高いレベルの久撥水性を追求してきました。
今回のリニューアルでは、この耐久撥水性をさらに進化させることを目指しました。目標は、150回洗濯しても80点以上の撥水性をキープさせる「150洗80点」(JIS-L1092法)。スキンメッシュ®が「100洗80点」だったので、ちょうど1.5倍です。
「 ファイントラックさんの加工は、とにかく難しい。小規模テストでうまくいった処方でも、量産になると安定しないんです。何度やり直したこか。量産処方の確定に2ヶ月以上はかかったと思います」。工場長の森川裕司さんは、そう言って苦笑いします。
[二日市工場の森川工場長(右)と内田主任]
それもそのはず。一般的なスポーツウエアの耐久撥水レベルは20洗80点。50洗80点で超撥水とされ、そこまでなら安定的な量産技術が確立されています。ところが150洗80点は、その3倍。前例などありません。
今回のドライレイヤー®ベーシックの加工処方には、多種類の薬剤、触媒、バインダー(結合剤)が使われ、成否を分けたのは、ある一つの薬剤の配合割合だったといいます。
「安定よりもギリギリを攻めて進化を求めるのがファイントラックさんの仕事。正直、少し不安でした。でも、だからこそ唯一無二のものが出来上がるんですよね」。処方を担った技術課の内田直主任はそう話します。
[加工剤に漬け込んだ生地をローラーで巻き上げる]
一方、機能進化に対するファイントラックの思いは、とてもシンプルなものでした。耐久撥水性が1.5倍になれば、汗冷えやベタつきを抑えるドライ性能が1.5倍長持ちする。
「もっとヘビーユースでき、1着を長く使ってもらえる。お客様アンケートからも見えていたニーズで、なんとしても実現させたい」(ファイントラック テキスタイル開発課・田中由希子)と考えました。
2018年9月、田中がまず相談を持ちかけたのは、繊維メーカー・ユニチカトレーディング技術開発部の八木優子さんでした。
もともとドライレイヤー®の糸は、撥水加工剤が固着しやすいように、繊維断面が凹凸の多種異形になっています。さらに加工剤が固着しやすいよう、糸の表面積を増やす方法はないか? それとも、加工方法を変えるのがいいか? あらゆる選択肢を、試していきました。
[さまざまな処方を試した際のテスト生地サンプルを手にする八木さん]
糸の表面に無数のクレーターをつける(アルカリ減量加工)、繊維を割って1本1本を細くする(割繊)、プラズマを当て分子結合を強める……など。無数のアイデアを探るも、繊維強度が下がったり、肌ざわりが悪くなったり、機械を壊しそうになったり、と失敗続き。最後の最後に光明が見えた方法、それが加工剤の種類と配合割合によるものだったといいます。こうして、ファイントラック、ユニチカトレーディング、サカイオーベックスの3社開発プロジェクトが始動しました。
「おそらくは、世の中にまだ存在しない耐久撥水レベルへの挑戦。先輩開発者に相談すると、ぽかーんとされる始末で。そのくらい現実離れした目標だったと思います」と八木さん。
サカイオーベックスの内田さんと共に量産テストした処方は合計15を超え、難航を極めました。
実験ラボテストと工場量産テストの両方で同じ傾向のいいデータが揃ったのが翌2019年3月。ギリギリ量産に間に合うタイミングで、会心のクリーンヒットが出たのでした。
最初の相談から約11 ヶ月が過ぎた2019年8月末、量産第1号のドライレイヤー®ベーシックの耐久撥水加工が、サカイオーベックス二日市工場で始まりました。150洗80点の目標をクリアした最初の生地が完成。次なる工程の地・京都の裁断工場へと運ばれていきました。京都の次は山陰・九州各地の縫製工場へ。こうして日本各地でモノ創りのバトンをつないで、新しいドライレイヤー®が誕生していくのです。
適度な保温力と汗抜けスピードのバランスに優れ、季節を選ばず、初めての一枚としても使いやすい汎用性の高さが特長の、基本のドライレイヤー®。
スキンメッシュ®から、耐久撥水性を150洗80点に伸ばし、抗菌防臭性を付与してリニューアルしました。