厳しい登山を何度も経験してきた登山家が山岳テントに求めるものとは。今回話しを聞いたのは、ピオレドール賞を受賞した登山家であり、山岳カメラマンとしても活躍する石井スポーツ所属アスリートの中島健郎さん。冬の屋久島でカミナ®ドームを使用したリアルなレポートをお届けします。
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海外登山の情報に敏感な方なら、2017年にパキスタンの北東部にそびえる鋭鋒シスパーレ(7611m)北東壁を平出和也さんと共に登攀し、翌年に「登山界のアカデミー賞」とも称されるピオレドール賞を受賞した登山家というイメージが強いかもしれません。
一般的には、日本テレビの人気番組「世界の果てまで イッテQ!」で、登山部の一員としてイモトアヤコさんをサポートした山岳カメラマンという顔が知られていることでしょう。
今回話を聞いたのは、公私ともに登山界で活躍する登山家であり山岳カメラマンでもある中島健郎さん。山に登るようになったきっかけは父親の影響があると言います。
中島さんは屈託ない笑顔がトレードマーク。落ち着いた雰囲気で話を聞かせてくれた
中島さんが4歳のとき、不慮の病で亡くなった父親の遺品でもある登山用具から山の世界に興味を持つようになり、進学した関西学院大学で山岳部に入部。
在学中、ネパールの未踏峰パンバリヒマール(6887m)とディンジュンリ(6196m)の二座に初登頂すると、卒業後には日本人で初めて8000m峰14座を登頂した竹内洋岳さんの挑戦にカメラマンとして同行し、2017年には前述したシスパーレを攻略。
さらに、2019年には同じく平出和也さんとタッグを組み、パキスタンにあるラカポシ(7788m)に南面の新ルートから登頂したことで、翌年に自身2度目となるピオレドール賞を受賞しました。
登山界に輝かしい功績を残してきた中島さんが、今年の1月にファイントラックのカミナ®ドームを屋久島で使用。当時のフィールドの様子を伺いながら、カミナ®ドームの実用感に迫ります。
―ピオレドール賞を受賞した2017年のシスパーレや2019年のラカポシではシングルウォールのテントを使っていますね。普段からシングルウォールを選ぶことが多いですか?
テントを使う環境によりますね。
日本では雨が降るからダブルウォールを使いますよ。逆に、海外の乾燥したところではフライシートがなくてもいけるんです。ネパールと比べると、シスパーレとラカポシがあるパキスタンの方がちょっと暖かいですけど、それでも日本よりは乾燥しています。
でも、もちろん麓のトレッキング中には雨が降ることもあるし、雨が降りそうな環境では海外でも僕はダブルウォールを選びます。ベースキャンプはダブルウォールを使うことが多いですね。シングルウォールと比べるとひと手間かかりますけど、やっぱり快適っていうところが大きいです。
言葉を選びながらテントのダブルウォールの快適さを説明。写真はカミナ®ドーム2
―ダブルウォールの快適性を具体的に教えてください。
まず、シングルウォールで雨が降ったら不愉快ですよね。入口を開けたらすぐに雨が入ってくるので。やっぱり多少の前室は欲しいです。
それと、ダブルウォールの方が内側に発生する結露が少ないです。
―シングルウォールとダブルウォールのほかに、テントを選ぶうえで注目するポイントはありますか?
やっぱり、軽さと使い勝手と強度ですかね。
―軽さは、具体的に何キロ以下を意識しているとかありますか?
1kg前後で考えています。あと、コンパクトさも重要ですよね。バックパックに入れて持っていけないと意味がないので。
―使い勝手はどこがポイントになるでしょう。
入口が長辺側にあるほうが出入りはラクですよね。
長辺側にある大きな入口がカミナ®ドームの特長のひとつ
―事前に強度を確かめるのは難しそうです。
気になるのは、寒冷地とかでバリバリに凍ったときに水が染み込んだり破れたりしないかとかで、それは街の平地で張っているだけじゃ全然分からないです。
そこは公式ホームページなどを見て判断する部分が大きいですね。カミナ®ドームも情報を得て、これなら使えそうだと思いました。
それと、公式ホームページを見たときに居住性も良さそうだと感じたんです。それで使ってみたいと思ってリクエストしました。
―今回、カミナ®ドームを実際に使った状況を教えてください。
今年の1月に冬の屋久島で使いました。ちょうど寒気が入ってきたときで、テレビの仕事で屋久島の最高峰、宮之浦岳からの景色と樹氷を撮りに行ったんです。
取材で訪れた冬の屋久島。宮之浦岳が白化粧する貴重な一枚(撮影:中島健郎)
―カミナ®ドームで何泊したのでしょう?
屋久島には一ヶ月弱いて、山の中でテントを使ったのは1週間くらいです。
―外気温や風の状況はどうでしたか?
気温はマイナス10度くらいだったと思います。風もまぁまぁありました。一応、テント泊指定地のエリア内でも、風を避けられるところに張りました。
撮影現場のワンショット。ときには厳しい環境でカメラをかまえる(撮影:中島健郎)
―使ってみて、率直な感想を教えてください。
カミナ®ドームの生地って、ちょっと怖いくらい薄いじゃないですか。本当にペラペラなんですよ。でも、破けるような心配はなく、意外と強度はあるなと感じました。
あと、フライシートの入口のファスナーがいいですね。生地が薄いモデルのファスナーって開閉時に結構生地を噛むじゃないですか。でも、カミナ®ドームのファスナーは全然噛まないので、そのストレスがない。もう全部のテントがこのファスナーでいいんじゃないかって思うぐらい、これはいいですね。
フライシートをファスナーを絶賛。実際に何度動かしても生地を噛むことはなかった
―事前に良さそうと感じた居住性はどうでしたか?
冬は特に荷物が増えるのでテントの中で窮屈に感じることがあるんですが、今回は4人用の中に男4人で入ったんですけど、窮屈じゃなかったです。
―中に入って、ほかのテントと比べて違うと感じた点はありますか?
天井の広さかな。その影響はあると思います。ちょっとした違いだと思うんですけど、それだけでも感じ方が違いますね。
―ほかに気になった点はありますか?
カミナ®ドームは軽いのはもちろんなんですけど、パッキングしたときにかさばらないのがいいですね。
そのまま適当にバックパックの中に入れてもかさばらないので、僕の性格に合っています。綺麗に折り畳むとか、なかなかできないので。
―冬に使うと内側に発生した結露が凍りついて、撤収するときにかさばることがあります。
屋久島ってすごい多湿環境なので、それが心配だったんです。冬のテント泊で何が嫌って、内側の結露が嫌ですよね。
でも、外気温がそこまで下がっていなかったせいかもしれないですけど、結露はそこまで発生しなかったです。不快に感じることはなかったですね。
―結露が少ないと通気性が高いのかなと思うのですが、寒くはなかったですか?
寒さはそんなに感じなかったです。
―カミナ®ドームで何泊もして不満はなかったですか?
1週間使ってみて大きな不満はなかったと笑みが溢れる
そうですね。値段以外は(笑)。でも、みんな良いものをちゃんと買いたいし、多少高くても手に入れられる軽さにメリットを感じる人は多いと思います。
―ちなみに、これまで厳しい登山を続けていて心が折れそうになったことはないですか?
毎回折れてますよ。僕は高所に弱くて、富士山でも吐いたりするくらいなんです。なので、高度順応にも大変苦労します。こればかりは慣れないですね。
―何度も辛い経験をしても山に登り続けるモチベーションは、どこから湧いてくるのでしょう?
案外、苦しい思い出って美化されてしまうんですよね。下山後はあんなに辛かったことをすっかり忘れて、次の山のことしか考えていない。それで、またこの辛いやつだ、って思い出すんです。
―もともと海外の山に興味があった?
最初は父親の影響で山に登りはじめて、まさか海外の山に登るとは思ってもいなかったです。
青空が広がった宮之浦岳の山頂付近。中島さんにしか撮れない風景が世界にはたくさんある(撮影:中島健郎)
でも、山に登りたい、どっかに行きたいってやっぱり、未知なるものを探求というか。それで海外の山も挑戦してみたいって思うようになったんです。
それは日本の山に向かう感覚とそんなに変わらなかったですね。
―海外遠征は難しいというイメージがあります。
日本で使っている道具をそのまま持っていって、テントを張れば大丈夫です。パスポートさえあればね、そんなにハードルは高くないですよ。
僕も出発の前日の夜に急いで荷物を詰めたり、毎回そんな感じです。
―最後に、今後の目標について聞かせてください。
世界第二位の高峰であるK2に未踏のルートで登る計画が当面の目標です。
そこに無酸素で挑戦するとなると、年齢的にもトライできる期間が限られているので、いまはまだ自分の山登りを続けていくために仕事をしています。
好きなことができる環境というのは、なかなかないですからね。
【教えてくれた人】
中島健郎(なかじま けんろう)さん
1984年、奈良県生まれ。大学卒業後は登山のツアー会社に就職し、山の撮影コーディネートや実際の撮影現場も経験。山の風景とは別に、平地とは違う環境に置かれたときに見せる人の表情におもしろさを感じ、山に向かう人々を映像や写真に収める仕事に興味を持つ。独立後、フリーの山岳カメラマンとして活動。2020年8月から石井スポーツに所属。
中島健郎さんの公式プロフィールページはこちら >
山を好きになると、新しい世界や超えたいなにかが見えてくる。自然の大きさ、厳しさ、美しさを感じながら登る。滑る。駆け抜ける。「マウンテンスポーツ」は、地球に生まれた喜びを五感のすべてで感じられるスポーツです。石井スポ-ツのフィールドと商品を 熟知したスタッフは、山を愛するすべての人をナビゲートします。
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設営場所を選ばないクロスポール自立タイプ、オールシーズン活用できるダブルウォール仕様のテントでありながら、最高レベルの軽さとコンパクトさを実現しています。
※ガイライン・収納袋・ペグ8本を含む総重量、カミナドーム1は1,280g、カミナドーム2は1,460g
構成/文 吉澤英晃
撮影協力 石井スポーツマロニエゲート銀座店