千葉県にある「ヨシキ&P2」は、ファイントラックが創業間もないころから取引を続ける老舗登山用品店。スタッフの吉野時男さんもファイントラックの創業当時を知る人物で、長年ドライレイヤー®を愛用しています。経験豊富な沢登りでドライレイヤー®を使ったレイヤリング方法などについて話を聞きました。
いまでこそ、ウエア、アクセサリー、テントなど、幅広いカテゴリーで商品を展開しているファイントラックですが、2004年に創業したときは、たった1枚の“フラッドラッシュ®”からのスタートでした。肌をドライにキープして、登山やアウトドアの安全と快適性を高めるアンダーウエアのドライレイヤー®が誕生するのはその後です。
千葉県にある登山用品店「ヨシキ&P2」のスタッフであり、今回話を聞いた吉野時男さんは、創業当時のファイントラックをよく知る人物。多いときは一年のうち130日も山に入り、発売当初からドライレイヤー®を愛用しています。
吉野時男さんは登山雑誌にもよく登場するちょっとした著名人
話を聞くと、いまでは汗冷えを軽減するウエアとして知られているドライレイヤー®ですが、最初はまったく別の用途で紹介されたのだとか。まずは、そんな裏話から話を聞きました。
―ファイントラックとは創業時からの付き合いとのことですが、どんなきっかけで取引するようになったのですか?
実はファイントラックの金山社長には、社長がファイントラックを立ち上げる以前からお世話になっていて、その縁もあって創業直後に第1号商品であるフラッドラッシュ®を紹介してもらいました。
―フラッドラッシュ®がファイントラックを扱うきっかけになった?
実はそうではなくて、「沢登りとかウォータースポーツ専用のウエアです」と当時紹介されて、ぶっちゃけ、これ売れるの? って思いました。
左がフラッドラッシュ®。いまは息子さんが使っている
それまで、沢登りのためにウエアを購入するっていう感覚がなく、どちらかというと登山で使っているものを兼用するか、傷んだ登山用ウエアを着ることが多かったからです。
さらに、撥水で水を弾くメリットもイメージできず、これは試してみないと何も分からないなと思って、自分で買って使ってみたんです。
―実用感はどうでしたか?
すると、確かに撥水のおかげで生地がほとんど保水しないので寒さを感じにくいんですが、素肌に直接着ると内側を水が伝うような違和感というか、気持ちわるさがありました。
―最初はあまり良い印象を持たなかったのですね。
そうなんです。そんな理由もあって、このときはまだファイントラックの商品を扱っていませんでした。
―それからどんなやり取りがあったのでしょう?
濡れたときの着心地が気持ちわるいという感想を、正直に伝えたんです。
そしたら「これを着れば着心地のわるさが解消されます」と紹介されたのが“フラッドラッシュ®スキン”。いまのドライレイヤー®の前身となる商品です。
左が初代のフラッドラッシュ®スキン。現行のドライレイヤー®(右)の方が網目が大きい
―発売当初は汗冷えを軽減するウエアではなかったのですね。実際、着心地は改善されましたか?
フラッドラッシュ®スキンを着たら水が伝うような気持ちわるさがなくなり、何だかすごくいいと感じました。
ファイントラックの商品を扱うようになったのはそれからです。いまではご存知の通り、ドライレイヤー®は汗冷えを軽減するウエアとして、ウォータースポーツだけではなく登山で着用する人が増えています。
店内にはドライレイヤー®がずらり。人気の高さが伺える
―吉野さんは沢登りでドライレイヤー®を愛用しているそうですね。どんなレイヤリングで沢登りを楽しんでいるか教えてください。
僕の場合は季節にもよりますが、ドライレイヤー®を着て、ウールの長袖のベースレイヤーを重ねて、最後にフラッドラッシュ®を着ることが多いです。
―独特なレイヤリングですね。それぞれの役割が知りたいです。
フラッドラッシュ®の役割は、ずばり撥水と保温です。
那須塩原の鹿股川桜沢での登攀シーン。足を開いてチムニーを越える
ウールのベースレイヤーは、水分を含む生地で温かい層を作るイメージで着ています。「濡れたウエア=温かい」という状況が矛盾すると感じるかもしれませんが、体温で水分が温まり、それが層となって保温性が高まる気がするんです。
ドライレイヤー®は、濡れたウールのベースレイヤーが肌に触れるのを防ぐために着ます。ドライレイヤー®があるからこそ、ベースレイヤーが濡れても温かいと感じるのかもしれません。
奥秩父を流れる鶏冠谷左俣。目の前に広がる緑が美しい渓谷らしい風景
―最初、レイヤリングについて「季節にもよる」とおっしゃっていました。違うレイヤリングで沢登りを楽しむこともありますか?
あまり濡れない沢には、フラッドラッシュ®の代わりに薄手の化繊の長袖を着ることが多いです。積極的に泳ぐ沢ではウエットスーツを着ることもあります。
―沢登り以外の山行、たとえば縦走などでもドライレイヤー®を着ることはありますか?
正直な話、沢登り以外ではあまり着ないんです。
―それは意外!? なぜですか?
僕の山行は、荷物を軽くして自分の限界近くまで長い距離を長い時間かけて歩き続けることが多いので、動いている最中は汗冷えが気にならないというのが理由のひとつです。
それとは別に、僕は行動の後半に歩くペースで発汗量をコントロールして、なるべくウエアが濡れていない状態でテント場に着くように考えながら歩くんです。
そこで、ドライレイヤー®を着て濡れを感じづらくなると、歩行スピードの調整が難しくなってしまうと考えて、そういう方法を取っています。
表妙義を縦走中。群馬県の名峰・妙義山は時男さんが足繁く通う馴染みのフィールド
―そうすると、ドライレイヤー®は一般の登山にもすすめにくい?
これは僕の登山スタイルに限った話です。もちろん、登山で汗が冷えて寒いという人には、ドライレイヤー®をおすすめできると思いますし、僕も仲間と休憩をはさみながゆっくり歩くときや冬にはドライレイヤー®を着ています。
自分の山行スタイルと照らし合わせて、上手にドライレイヤー®を活用することが大事です。
ードライレイヤー®に限らず、最近は登山のウエアはどれが良いのか、漠然と答えを探している人が多いと感じます。
対面接客ならコミュニケーションの中から、その人の行動パターンや体質、登る予定の山や時期といった情報を引き出して、そこから総合的に判断して、希望に近い商品を提案することができます。
さまざまな商品に触れているからこそ、安易に“おすすめ”という言葉を使わず、ユーザー一人ひとりにマッチする商品選びを心掛けている
インターネット上の商品レビューも参考になりますが、実際に商品を買って試したときに、書かれていることと同じメリットを感じるかどうか、それは正直分かりません。
たとえば、同じ環境で同じウエアを着ても感じ方は人それぞれなので、一概にこれ良い、これがわるいと言うのは難しいですね。
ーとはいえ、いまはオンラインで買い物をする人も増えました。自分が求めているものに近い商品を見極めるには、どうしたらいいのでしょう?
すべての商品は、不満やストレスを解消するために作られています。ドライレイヤー®なら、それは汗冷えになるでしょう。まずは、自分が抱いている悩みを知ることが大切ですね。
また、悩みとは別に商品の機能やそのメカニズムについても理解に努めるといいと思います。
たとえば、ドライレイヤー®がなぜ汗冷えを軽減してくれるかというと、それは高い撥水性が汗を含んだウエアを直接肌に触れないようにするからです。
こうやって少しずつ商品知識を増やしていけば、道具の素材や機能を見たときにどんな効果が期待できるのか、分かるようになるはずです。
―商品を買うとき、そこまで考える人は少ないと思います。
店内のファイントラックコーナー。ユーザーの数だけ特長の異なるウエアが開発されている
万人が100%メリットを感じるウエアはなくて、だからこれだけ商品があるんです。
商品が欲しいと思ったとき、何を解消したいと感じたのか、それを可能にするにはどういった機能が必要なのか、その機能を備えるアイテムにはどんな種類があるのか、自分の悩みについて深く考えて、道具の特長をきちんと把握し、できるだけベストに近い買い物をしてもらいたいですね。
もちろんお店に来て頂ければ、希望する商品の購入に至るまでのプロセスをお手伝いさせて頂きます。
【教えてくれた人】
吉野時男(よしの ときお)さん
1974年、千葉県生まれ。両親が「ヨシキ&P2」を経営していたこともあって、大学卒業後すぐに、登山用品の販売経験がゼロの状態で200坪と45坪のアウトドアショップの店長に就任。右も左も分からない当時、お世話になったのがファイントラックの金山社長。現在は豊富な商品知識でユーザーをサポートしている。
ヨシキ&P2
登山、ハイキング、トレイルランニング、クライミング、沢登り、アルペンスキー、テレマーク、山スキー、アイスクライミング、冬山登山etc…
私たちは自分たち自身も四季を通じて山遊びを楽しみ、自然を愛する方々へのお手伝いをしています。
ベテランから初心者まで様々な方がご来店していただき、快適にやまあそびを楽しんでもらうために商品の販売、役に立つ講習会、みんなで楽しむ山のツアー、山の情報の発信など、いろいろな面でサポートいたします。
肌に直接着て、その上に吸汗速乾ウエアを重ねることで、肌をドライにキープ。汗冷え・濡れ冷えのリスクを軽減し、登山やアウトドアでの安全・快適性を高めます。
優れた撥水性によって、かいた汗を瞬時に肌から離し、肌をドライにキープ。汗冷えを抑えて、体温を守ります。
構成/文 吉澤英晃