山岳ガイドなど、その道のプロ御用達の山道具専門店「山の店 デナリ」。歯に衣着せぬ物言いで多大な信頼を得ている名物オーナーは、ドライレイヤー®の良さをどのように捉えているのか。予期せぬ発言が飛び出すかもしれないその取材内容を、包み隠さずお伝えします!
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JR四ツ谷駅の四ツ谷口から外に出ると、大通りの交差点を挟んだ右奥に、いくつものショップやオフィスが入る真新しい商業施設「CO・MO・RE Mall(コモレモール)」が現れます。ここの2Fにあるのが、今回お邪魔した「山の店 デナリ」です。
ビルの1Fに掲げられたショップリストの案内板に「クライミングスペシャリティストア」と書かれているように、デナリはクライミングギアに長けた山道具専門店。販売するのはメーカーの展示会で細部までチェックして厳選したアイテムのみ。そして、買わせる誘導はせず、質問相手が納得いくまで語り尽くす接客が持ち味です。そんな特色から、多くの山岳ガイドも顧客に名を連ねるプロショップでもあります。
「遊び目的でお店に来てもつまらない」と話す店内には、各メーカーのラインナップから選び抜かれたアイテムが整然と並ぶ
−まずはドライレイヤー®との出会いから教えてください。
初めてファイントラックの担当営業マンからドライレイヤー®について聞いたときに、すげー胡散臭いっていうか、なんか怪しいよなって思ったよ。なに言ってんのって。だって、いまあるウエアで登山に必要な機能は足りちゃうわけだからさ。また怪しい素材を作りやがってって。
話を聞いた平野さんはサングラスがトレードマーク。山道具の悩みを明かせばマシンガントークで何時間も質問に応じてくれる
−第一印象はマイナスから入ったんですね…。そんなウエアを初めて使った山行を覚えていますか?
いちばん最初は沢登りだね。そっから冬山でも若干使うようになったかな。
−それは、胡散臭かったウエアの良さを感じた、ということでしょうか…?
沢登りで雪渓から流れてくる冷たい水に浸かって、ずっと唇を紫色にして震えながら「俺なにやってんだろ?」って思うようなとき、やっぱドライレイヤー®を着ていると、あれ、前とは違う、みたいな。とくに水から上がって「はやく登ってくれよ〜クソ寒いよ〜」って思いながらパートナーをロープで確保してるときなんかには、違いをハッキリ実感できたね。あれ、これって凄くアリじゃん!? って思っちゃった。
低水温の徒渉でも、夏の日差しが差し込めば暑さが堪える。黒部川 上ノ廊下の遡行
あと、やっぱり冬山。マイナス温度の中をストップ&ゴーのスタイルで行動したとき、汗をかいた体で「ああ、たしかにドライレイヤー®って今までなかったジャンルのウエアだよね」って思った。
−割とフワッとした感覚でいいと思ったんですね。
個人的にはドライレイヤー®って、追い込まれたっていうか、すごく寒い状況じゃないとなかなかありがたみが実感しにくい。すごい暑いときにドライレイヤー®の汗冷え軽減効果が機能していても、それを自分自身で感じづらいから、「もう寒くて、死にそうです!」ってときの方が、ドライレイヤー®のありがたみがフィジカルに刺さる。だから、やっぱりタフなコンディションのときこそ真価を発揮する、玄人も唸るウエアだと思ってる。
−平野さんにとってドライレイヤー®は、けっこうシビアな状況で使うウエアのようですね。
そうだね。ただそうなると、ぼくがドライレイヤー®の恩恵を最大限味わうには、やはり極端に寒い時期やシーンが理想的だね。
だからぼくが必ず使うのは、胸まで浸かるような沢登りと真冬の山。さっきも言ったように、タフなコンディションほど役に立つ。要するに、体温維持が気合いではどうにもならいような、地獄のとき。沢登りで冷たい水の中にずっと浸かってるときはすごくいいよ。あと、ストップ&ゴーを繰り返す冬山のときもね。
カナダ バンフでのアイスクライミング。ストップ&ゴーのクライミングでは汗冷え対策にドライレイヤー®の真価を実感
−つまりドライレイヤー®が活躍するのは、水に触れているときや沢水や汗でウエアが濡れた状態で動きを止めるときだと。
そうなんだけど、ただ、さっきも言ったように、そういうシーンって毎回じゃないのよ。常にそれが一年中続くわけじゃない。だから逆に中途半端な場面で着ると、あれ暑いかなってなる。基本、レイヤリングが増える=暑いだから。一年中を通して着るようなことはないかな。
−となると、夏の一般登山でドライレイヤー®を着ることはないですか?
寒暖差がある3000m級の山を登るときはそんなこともなくて、縦走だってずっと歩き続ける訳ではないし、クライミングでビレイしているときなんかは、着ていて良かったと思う。この1枚を着るか着ないかって考えるときもあるけど、この重さだったらとりあえず持っていってもいいかなってなるね。
−店頭ではどんなユーザーにすすめることが多いですか?
うちのような専門店で商品を買う人に関しては、もうピンポイントでやりたいことや欲しいものが決まっているから、たとえば泳ぐような沢登りに行きたいって言われたら、「いちばん下に着るのはドライレイヤー®はマストだよね」って話から始めて、その必要性を語りまくれば誰もが納得して買ってくれるね。
ただ、さっきも言ったようにシビアな状況でこそ快適さを実感できるウエアだと思ってるから、やっぱり沢登りとか雪山山行のような、極端な温度変化にさらされるようなときにすすめることが多いかな。
−ドライレイヤー®には種類が3つありますが、沢登りと冬山で使い分けることはありますか?
いちばん使いやすいのはドライレイヤー®ベーシックだね。
−寒い状況で着ることが多いので、てっきり保温性の高いドライレイヤー®ウォームを使っているものとばかり思っていました。
生地に厚みがあるドライレイヤー®ウォームは、どちらかというと暑がりのぼくにはあまり必要ないかな。ドライレイヤー®一枚でどうにかしようとはもともと思ってないから、保温性は上に着るベースレイヤーでどうにかすればいいかなって。
逆にドライレイヤー®ウォームを着たら、すごい気温が高いときにどうしようって思う。生地に厚みがあるから、着たときの圧迫感も気になってくるよね。
平野さんの基本であるドライレイヤー®ベーシックのほかに、店内にはドライレイヤー®ウォームもラインナップ。女性用も取り揃えている
−冬山はともかく、沢登りでは何枚も重ね着をしないと思います。となると、ほかのウエアで保温性をカバーするのは難しくないですか?
ドライレイヤー®ウォームを着たら、ぼくなら入渓前のアプローチで暑くて仕方がないかな。だから、基本薄手のレイヤリングで調整してる。ドライレイヤー®+ラピッドラッシュ®+ネオプレーンベスト。それでも寒ければレインジャケット。
それと、沢でも常に水に入って冷たいわけじゃないから、水に浸かる一瞬だけ我慢できればだいたい大丈夫。ドライレイヤーも最終的に水の中に完全に浸かっちゃうと、やっぱりただの薄い布だし。入水時に感じるファーストコンタクトの冷たさだけでも軽減できれば大満足。あとは、水から上がったときに濡れた着衣が直接肌に触れていない感じは秀逸だね。
−ドライレイヤー®には、タンクトップ、ロングスリーブ、Tシャツと、袖の長さも3種類あります。好みとかありますか?
基本はTシャツだね。でも、どうしても肩周りの動きは制限されるから、動きやすさを考えるときは袖がないタンクトップの方がいいってなる。
本当に寒いときには長袖がいちばんいいのは分かってるけど、半袖にしますか、タンクトップにしますか、長袖にしますかってときは、シーズンとシーンを考えながら選ぶのが良くて、いま言ったデメリットとメリットも考える必要があるね。冬だから長袖じゃないんだよ。
アメリカ、ユーレイ渓谷でのアイスクライミング。終日、日差しがあたらない谷間では体の芯から冷えてくる
− それでは、たとえば一般登山でドライレイヤー®を使うなら平野さんだったらどのタイプを選びますか?
タンクトップになるかな。要は人間の大事な部品って真ん中にしか入ってないから、体幹だけを守るようにする。
手足の寒さはあるていど我慢できるんだけど、体幹の動力が機能停止しちゃうと、寒いときに熱を生み出せない。そういうときにドライレイヤー®は、体幹の温度を全体的にコントロールをするときにはすごくいいアイテムだと思うよ。
そういえば思い出したんだけど、ドライレイヤー®を冬山で使うとき、いちばんの問題はウールのベースレイヤーとのコンビネーションだよね。化繊であるドライレイヤー®の上にウール素材のベースレイヤーを着ると、素材同士の擦れで静電気が起きるわけ。
冬の乾燥した空気の中では「歩く発電所」状態。それが嫌な人って結構多いでしょ。
平野さんは山岳ガイドのほかに、登山雑誌の編集者や専門ライターなどメディア業界との繋がりも深い。静電気の話は雑誌の座談会で話題に上がったと教えてくれた
−それは空気が乾燥する冬ならではの問題ですね。
ぼくは化繊+化繊派だからまだ良くって。この時期、ベースレイヤーの素材では“ウールを着るか化繊を着るか“のどちらかの好みに分かれるんだけど、冬期になると積極的にドライレイヤー®を着る人も増えるわけで、じゃあウール派の人はどうしても静電気が起きやすくなるよねって話し。
−そんな声も多かったようで、最新のドライレイヤー®ウォームには静電気の発生を抑える制電糸が使われています。
じゃぁ進化してるんだね。だったらさ、ドライレイヤー®ウォームとウール素材のベースレイヤーの組み合わせで弊害がないことをアピールした方がいいよ。大した話じゃないかもしれないけどさ、やったらバチバチするよなってなったとき、絶対ドライレイヤー®のせいだってなるから。静電気が発生する大きな原因のひとつはウールと化繊の擦り合わせだからね。
−最後に今回の取材内容をまとめたいのですが、ドライレイヤー®は着るシーンに合わせて、ピンポイントで使えば効果てきめんということで大丈夫でしょうか?
そうだね。シーズンを通して使うのもありだと思うけど、ぼくが素晴らしさを感じるのは、この一枚が冷たさや寒さを解消してくれるのを実感できるときなんだろうね。
−ありがとうございます!
【教えてくれた人】
平野応典(ひらの・おうすけ)さん
「山の店 デナリ」の名物店主。接客に関わるだけでなく、道具のカスタマイズにも対応。冬になると上下ワンピースの作業着を身にまとい、甲高い音を出しながら高速回転するグランダーで火花を飛ばしながらアイスアックスのピックを磨く作業が日課になる。攻撃力が何倍にも増したピックの先端は刺さりがいいと評判だ。
山の店 デナリ
細部までチェックして厳選したアイテムのみを取り扱うクライミングギアに長けた山道具専門店。買わせる誘導はせず、質問相手が納得いくまで語り尽くす接客が持ち味。
構成/文 吉澤英晃
肌に直接着て、その上に吸汗速乾ウエアを重ねることで、肌をドライにキープ。汗冷え・濡れ冷えのリスクを軽減し、登山やアウトドアでの安全・快適性を高めます。
優れた撥水性によって、かいた汗を瞬時に肌から離し、肌をドライにキープ。汗冷えを抑えて、体温を守ります。
構成/文 吉澤英晃