ファイントラックの製品は、高い技術力を持つパートナーの存在なしには語れません。この春、リニューアルした「レイルオン®カミノハット&キャップ」も、日本国内で長い歴史を持つ帽子専門メーカー「コカジ」との協働で生まれました。
目次 |
――コカジは昭和22(1947)年創業とのことですが、ずっと大阪で帽子の製造をしていたんですか?
古鍛治:創業当時は帽子の卸売りを行っていました。今から40年ほど前の昭和54(1979)年ごろから製造工場を稼働させ、本格的にモノ創りを始めました。
俵:最初は大阪市の西成区に本社があって、平成に入ってから今本社がある箕面市に移りました。中国とベトナムにも生産拠点がありますが、本社でも企画から量産まで一貫して対応できる生産体制を今も維持しています。
――アパレルに限らず、最近では人件費の安い海外で生産を完結させる場合も多いですよね。
俵:われわれの業界でも、特に生産・量産に携われる人材が国内で減ってきている傾向があります。そんな状況下にあっても、国内外どちらの生産にも対応できるのが弊社の特長です。コスト面などで海外生産のメリットは確かにありますが、finetrackさんのような繊細なオーダーには、やはり日本での生産体制があるからこそ応えられるのだと思っています。
古鍛治:営業も企画も生産も、困ったことがあればすぐ相談できる環境で、それぞれの担当が顔を合わせてコミュニケーションをとれる点が強みだと思っています。サンプルと量産品の差がなく、高い品質を維持して生産できることにもつながっていると思います。
相川:特に帽子製造で、コカジさんほどのレベルで国内の生産体制を維持している会社はとても珍しいと思います。難しい仕様の要求や細かい修正をこちらが依頼してもすぐ対応していただけますし、本当に素晴らしいパートナーとめぐり会えたと思っています。
――お互いに信頼してモノ創りに向き合っていることがうかがえます。そして生まれたのが、今回の「レイルオン®カミノ キャップ&ハット」ですね。
山本:これは以前の「レイルオン®キャップ&ハット」をリニューアルしたものです。finetrackの人気ウエアである「カミノパンツ」の、薄手でありながら高い耐久性を備えた生地を今回初めて採用しました。
相川:「カミノパンツ」の生地以外にも、こだわったポイントはたくさんあります。コカジさんだからこそ実現できたことも多いと思っています。ただ、ややこしいリクエストを何度も出していたので、困らせていたのではないかと非常に心配でした……。
――実際に企画・制作に携わった方に聞いてみましょう。髙橋さん、いかがでしょうか?
髙橋:私は前回モデルのキャップも担当させていただきました。そのときはベンチレーションの縫製がすごく複雑だったなと記憶していたので、正直なところ今回モデルはどんなオーダーが来るのか内心ドキドキしていました。
――今回の制作にも参加してみて、率直な印象はどうですか?
髙橋:finetrackさんの製品でしか見ない仕様がたくさんあるので、難しいのは間違いないです。でも初めて今回のデザインを見たときは、むしろすごくシンプルだなという印象でした。
相川:今までのモデルは「機能推し」の要素が強かったんですよね。そこが反省点でもあって、今回は帽子らしさというか、キレイなシェイプのものを作りたいなと。機能性と美しさを両立させるのが目標でした。
――それが原案にも表れていたんですね。ただ、お話をうかがっていると、機能性だけでなく美しさにもこだわることで、さらに難易度が上がったように思うのですが……。
山本:実際、理想のシルエットを実現するには苦労しました。
髙橋:何度も試作を出しましたよね。一般的なキャップの形状だと他の製品で培ったノウハウを応用させやすいのですが、finetrackさんの製品はそう簡単にはいきませんでした。
相川:スポーツやアクティビティ用のキャップって、かぶってみて「なんか浅いな」と頼りなく感じるとその時点で選ばれません。かといって、深々し過ぎた帽子もかっこ悪い。かぶったときの安心感がある、それでいてキレイなシェイプである、その両立を求めていろいろ悩みました。
髙橋:試作品は実際に何度もかぶってみて、ちょっとでもフィット感の悪さを感じたら、微調整を繰り返していました。まさにミリ単位の作業だったと思います。
相川:そこまで繊細な作業になると、実際の寸法で何センチだと伝えても、上手くいくものではないんですよ。本当に、コカジさんにはいつも無理難題をお願いしているなと改めて感じました。
――続いて、ハットづくりでこだわった点も教えていただけますか?
吉田:ハットもキャップ同様、美しいシェイプを作るのに苦労しました。特にひさしの部分にピンッと「ハリ」を出せるようになるまでは、試行錯誤の連続でした。
――どんな工夫を施したんでしょうか?
吉田:例えば、ひさしの芯に使った材料選びですね。「芯材」と言いますが、通常ハットには芯材に薄いシート状の不織布を使うことが多いんです。ですが、それだとひさしの先が波打ってしまって、キレイな「ハリ」が出せません。そこで今回は、キャップに使うしっかりとした素材を選びました。
相川:その芯材にたどり着くまで紆余曲折がありましたよね。
吉田:不織布のほかにワタなども使ってみましたよね。何種類くらい試したでしょうか(笑) あと、キャップにも共通して言えることですが、finetrackさんの製品にはシェードを装着するためのレイルがありますよね。シェイプを崩さずにレイル部分を縫い合わせるのもかなり苦労しました。
相川:美しいシェイプを実現するためには、レイルはむしろ邪魔な部分かもしれません。機能性を両立させるため、ややこしいリクエストを出したことを覚えています。
吉田:最終的に、一般的なハットに採用している縫い方ではダメだとわかって、かなり複雑で繊細なステッチが入っていますよね。ぜひそこも実物でチェックしていただきたいポイントです。
――普段聞くことのできない裏話が聞けて非常に興味深いです。それだけトライ&エラーを繰り返していると、製品化に至るまでずいぶん時間を要したんじゃないですか?
山本:本当にギリギリのタイミングで、今回の製品化に間に合いました。ハットの方で言うと、製品版とほぼ同じ仕様の試作が出来あがったのは、関係者向けの内見会の直前でしたよね。
相川:このバージョンで上手くいかなければやばいなと、不安でいっぱいでした(笑) ところが、送ってもらった試作を見てみると、「あ、これだ」って見た瞬間にわかるくらい素晴らしい出来栄えになっていて、本当に安心したのを覚えています。
――ミリ単位の調整や材料選び、細かい縫製などにも妥協せずにモノ創りに向き合った結果ですね。最後に、企画に携わったコカジのお二人から、「レイルオン®カミノ キャップ&ハット」の注目ポイントを改めて教えてください!
髙橋:やっぱり実際にキャップをかぶってみて、フィット感を体感してもらいたいなと思います。後ろ側のアジャスターなど、言い尽くせないほどの細かいこだわりがあるので、ぜひ実物を見ていただきたいです。
吉田:ひさしの「ハリ」の美しさが、今回のハットの大きな特徴だと思っています。そのほか、キャップにも言えることなんですが、今回はレイルの着脱しやすさにもこだわっています。そこも見てほしいなと思います。
相川:ちなみに、以前のモデルでも採用しているんですが、内側の肌が接する「汗止め」の部分には、finetrackのドライレイヤー®を使用しています。
相川:これも簡単な技術ではないのですが、コカジさんに無理を言って付けてもらっているんです。でも実はこの素材で完全に満足しているわけではなくて、もっと厚みがあって吸汗性のある素材はないかとずっと模索しています。100%満足できる製品が実現できるように、これからもコカジさんと共にモノ創りに取り組みたいと思っています。
構成/文 和田翔