DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

今回の夏休みは連休の真ん中に所用があったため、連続で山に行ける日数は最大でも予備日を1日含めた5日間。コロナ以降、山中泊からは遠ざかってしまっていたので体力に不安もあり、テント装備を担いでの長時間行動は避けたいし、ソロ活動なので車の回送なしで気軽に行ける場所が良い。そう思いながら行先を検討している際、ふと読売新道が頭に浮かんだ。奥黒部ヒュッテのある東沢出合のテント場に荷物をデポすれば、ファストハイクで赤牛岳を経由して水晶岳まで行って戻ってこられるのでは?それなら扇沢発着で行動できるし、ちょうどその稜線には以前から魅力を感じていたものの、まだ足を運んだことがなかった。

■アクティビティ日 2022年8月6日~9日

一番の目的である奥黒部ヒュッテから水晶岳の往復だけだと3日あれば十分。
だけど今回は予備日を除けばあと1日は行動できる。せっかくなので五色ヶ原でのキャンプをおまけとして付けることにした。
1日目は扇沢からトロリーバスとロープウェイで室堂まで行き、五色ヶ原まで歩いて針ノ木岳を正面に見るあの高原地でキャンプ。
2日目は黒部湖へ降りて渡し船に乗って奥黒部ヒュッテまで歩き、テント場でのんびり読書をしながらキャンプ。
3日目に奥黒部から赤牛岳・水晶岳までを往復して再び奥黒部に泊。
4日目に再び渡し船で平ノ小屋へ戻り、黒部ダムまで歩いた後はトロリーバスで扇沢へ。

3日目以外はたっぷり余裕のある贅沢プラン。これなら私でも楽しめそうだ。

仕事の後、夜通し車を走らせて早朝に扇沢に到着した初日。さすがに眠かったので始発のトロリーバスは見送り、仮眠をとってから2本目のトロリーバスで出発することにした。
グリーンシーズンの室堂は4年ぶりか。ガスの合間から少しばかり顔をのぞかせている劔岳に挨拶をしてから8:20に行動開始。まずは竜王岳に向かう。


遠くにチラリと見える劔岳の稜線。

竜王岳の頂上に立ち寄ってからまた縦走路へ。
灌木の緑と雪渓の白ですっかり夏山らしさを身に纏った北アルプスに見惚れながら気持ちよく歩く。


なんて爽やかな景色!来てよかった。


ザラ峠では休憩する登山者の姿も。

それでも鬼岳・獅子岳を越えてザラ峠を過ぎる頃には少し息が上がってきた。
久しぶりのテント泊装備を背負った行動による筋肉疲労、高い気温と照り付ける日射しによる軽い熱中症、そしてほぼ徹夜明けで高山で行動することによるバテ。要因はいろいろある。
自分の体調変化を見過ごさないよう意識して、無理のないように行動スピードを少し落とした。

この日は曇天~雨の予報だったが、五色ヶ原に到着した12時頃には空のガスも切れ間を見せ、美しい高原風景が見られて疲れも吹き飛び、持ってきていたポテトチップスで塩分補給をしながら意気揚々とテントを設営した。


ガス越しに光の当たる五色ヶ原。

この日は夕方に雨が降り、テントの中で自家製ドライフードを投入したスープを食べた後はぐっすりと眠った。

2日目はすっかり晴れ渡った空。


ご来光を浴びて気分もアガる。

テントを撤収して6時に歩き出す。チングルマが朝露で輝く五色ヶ原は、まるで天国のようだ。


チングルマの群生に癒される。

一気に標高を下げ、平ノ小屋に着いたのが8時。次の渡し船は10時なので小屋でピーチネクターを買ってゆっくり朝食を摂り、結露で濡れたテントを乾かさせてもらい時間をつぶした。


風で揺れる湖面。

渡し船で右岸に渡ったあとは黒部川の上流へ向かってたまにハシゴの上下を交えながら水平移動する。


奥黒部ヒュッテまではアスレチックのようなトレイルが続く。

12時には奥黒部ヒュッテに到着。小屋の近くを流れる東沢で水浴びをして火照った身体を冷やし、スッキリしてからテント場の木陰でビールを飲んでゆっくり過ごした。


とても快適な東沢出合のテント場。

3日目はいよいよ今回の旅の1番の目的地、読売新道を歩く。朝3時にスタートし、ヘッドライトを頼りに樹林帯を歩く。
高度を上げるにつれて樹木の身長が低くなり、空も白んできた。歩き始めは稜線に出れば星が見えるかもと期待していたが、結局景色が開けるころには5時も近く、夜明け前の光が届いてしまっていた。


4時半には明るくなる夏山のありがたさ。

少し残念にも感じたが、視界が晴れると歩きやすく心も晴れる。斜陽の射す黒部湖を背後にしばらく登ると、いよいよ稜線歩きに入った。


いかにも爽やかな朝。

赤牛岳までは本当に気持ちいい稜線が続き、7時過ぎには赤牛岳山頂に到着した。


その名の通り赤茶色い赤牛岳の山肌。

奥黒部ヒュッテから水晶岳までは小屋や水場のない長い稜線歩きが続くため、赤牛岳で引き返すプランも念頭に入れていたのだが、このペースなら大丈夫そうだ。
ただし安全のためにも11時を過ぎたらどこにいても折り返そう、と心に決めて水晶岳に向かった。


赤牛岳山頂。


黒岳の異名をもつ水晶岳は、隣の赤牛岳と比べて明らかに黒っぽい。

赤牛岳から水晶岳までの行程は、ちょっとした岩稜帯や砂礫もはさみ、多少の変化があって面白い。
途中、水晶岳から奥黒部ヒュッテに向かうというグループとすれ違い、好天に恵まれてこの稜線を歩ける喜びを分かち合う。
私が早出したこともあって、この日初めてすれ違った登山者だった。今夜は奥黒部ヒュッテ泊とのことで、のちほどヒュッテの前で会ったらぜひカンパイしましょうと言っていただいて元気をもらった。


水晶岳の最後の登り。ここに来てすっかりガスに包まれてしまった。

温泉沢の頭を過ぎると水晶岳の黒く雄々しいピークを間近に見られる。時刻は9時過ぎ。コースタイムは山頂まで50分ということだが、ここに来てペースが落ちてきていることもあり、「本当にあんなところまで行けるのだろうか」と少し弱気になりながらもゆっくり歩く。
なんとなく胃の調子が悪い気もしてきた。
それでも歩き出すとルートは明瞭で、10時前に水晶岳に到着。ガスで山頂からの展望はなく、すぐに折り返しを開始した。

山頂は登山客が多かったが、この日は水晶小屋からのピストンする人がほとんどのようで、再び温泉沢の頭に戻る頃にはほかに登山者の姿は見えなくなった。また一人のんびりと赤牛岳を目指す。


さあ、あの赤茶色い稜線に戻るぞ。

歩いているうちに、水晶岳のピークを前になんとなく感じた胃の不調が顕著に感じられるようになってきた。胃薬を服用しようとファーストエイドキットの常備薬ケースを開けると、なんと胃薬を入れ忘れてきてしまったことに気づいた。
どうしても気持ち悪く、トレイルを少し外れて立ち止まり胃液を吐く。水分と梅干を補給し、気を取り直して歩き出すもまた気持ち悪くなり立ち止まる。
そんなことを繰り返しながらゆっくりと赤牛岳に近づいていく。このままでは行動時間がかなり長くなってしまう。奥黒部ヒュッテの方たちに18時頃を目標に戻ってくると伝えていたので、あまり遅くなると心配をかけてしまう。そんなことを考えながらトボトボと歩いていると、向かいから歩いてくる一人の登山者が見えた。

不躾ながらその登山者の方に胃薬を持っていないか聞いてみたところ、「あるよ!大丈夫?3袋ぐらいあげるよ!」と快く薬を分けていただけた。

爽やかに去っていくおじさんにお礼を言って胃薬を飲むと、みるみるうちに胃の不快感が去っていく。
なんという効果!自分も今後は胃薬を忘れないだけでなく、他の人にも分けられるように余分を持ち歩くようにしよう、と心に誓った。


黒部湖が見えてほっとする。

再び赤牛岳山頂に着いたのが12:45。胃薬のおかげでここから先はペースを落としすぎることなく、来た道を通って16時に奥黒部ヒュッテに到着した。
奥黒部ヒュッテでは小屋のスタッフ2名にねぎらいの言葉をかけてもらい、朝すれ違ったグループとも無事に再開でき、おかげですっかり疲れが吹き飛び、元気にビールで乾杯してからテントに戻った。


真夜中に目を覚ますと外は満天の星空。マットを持ち出してしばらく外で寝転んで星空を鑑賞した。

4日目、テントを撤収しお世話になった小屋の方たちにご挨拶をしてから出発。渡し船を渡り、黒部湖までの長く水平な道程をもくもくと歩いてからトロリーバスで扇沢へ戻った。黒部湖の売店で買ったコーラのおいしさが身に染みる、とても暑い日だった。


観光客の人たちとすれ違う頃には、コーラのことで頭がいっぱいだった。

3日目には胃調を崩すというアクシデントや反省点もあったが、五色ヶ原と奥黒部の快適なテント場、赤牛岳・水晶岳の稜線歩きを一度に楽しめた贅沢な山トリップとなった。帰ったらまずは薬局に行って胃薬を補充しようと思いながら帰路についた。

 

遊びのMVPアイテム

カミナ®ドーム

贅沢な室内空間でありながら軽量で、なるべく荷物を軽くして歩きたいという私のような非力系女子でも無理なく背負うことができるカミナドーム2。もっと軽さを求めるならツエルトにする手もあったのだが、天気予報では雨天が続く予定だったので、停滞の可能性に備えて居住性の良さを取った。ツエルトに比べると重たいが、テントとしては十分軽量だし、かつ設営は簡単。テント泊登山をラクに、かつ快適にしてくれるアイテムだと思う。

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