笠ヶ岳・穴毛谷四ノ沢に入るとひと際目につくのが正面にそびえるピナクル(2407ピーク)だ。東南壁側はこのエリアでは比較的登られているラインだが、ピナクル北東壁はまだ未登のようだ。この北東壁からピナクル尾根に繋ぎ、笠ヶ岳山頂まで詰めて穴毛谷を滑るClimb & Glideにトライした。
クライミングセクションは10ピッチロープスケール400m。笠ヶ岳の岩場ならではの不安定さに直前に降った雪が加わって、どのピッチもいやらしく気が抜けない。
スキーセクションは荷物も重くパートナーはショートスキーなので、笠ヶ岳山頂から杓子平、穴毛谷の本谷を滑る最弱点ラインを選択した。杓子平の大斜面に、穴毛大滝付近の複雑な地形のルートファインディング、穴毛谷のダイナミックな景観と、スキーのラインとしてもなかなか素晴らしいライン。
Climb & Glideでトライしたラインとしてはこれまでで一番の充実度であった。
■アクティビティ日:2022年5月3日~5月5日
クライミングルートは上部のピナクル尾根に合流するまでの部分は調べて見た限り未登と思われるためルート情報をまとめる。
四ノ沢の右又に入り、岩壁が明確に雪渓上に降りてくるところから取り付く。1ピッチ目は緩傾斜部分から取り付き、2ピッチ目から4ピッチ目までチムニーまたはジェードル状の凹角を登り、その後雪稜を登ってピナクル尾根に合流する。
2ピッチ目の顕著なチムニーがルートの核心だ。ルート名は「中央チムニー」としたい。そのままピナクル尾根につないでピナクルの頭に抜ければ10ピッチ、ロープスケールで400mのこのエリアでもかなり長大なルートになる。
気温が上がった穴毛谷のアプローチは危険なため、夜明け前3時に行動開始して、穴毛谷を詰め上がる。
四ノ沢に入ると、ガスの切れ間から目指すピナクルが。非常に見栄えのする岩塔だ。
通常比較的まだ登られているピナクル東南壁側は正面の二股を左に取るが、今回は右俣から、ピナクル付け根から登攀するラインを狙う。
ピナクル北東壁全景。ピーク左下に見える雪田までが新ルート。その上は既存のピナクル尾根ルート
取り付きにいる人でスケール感がわかるだろうか。
1ピッチ目 60m II~III
傾斜はないがその分笠ヶ岳特有の脆さに非常に気を遣う。
今回、リードの荷物を減らすため、フォローはスキーを2本背負っての登攀でなかなかの苦行である。
2ピッチ目 45m V
被ったチムニーで全体の核心だろう。
リードは空荷で。荷物があるとフォローもできないので、荷物は全て荷揚げした。
3ピッチ目 40m IV
浮石の詰まったコーナーからフェースの地味にいやらしいピッチ
陽が当たりだすと、前日に降った雪があちこちで雪崩だし、午後になると四ノ沢は雪崩が川のようになっていた。早めのアプローチで正解
4ピッチ目 30m III
凹角で、とにかくスキーが邪魔。何とか体の向きをあーだこーだと変えつつ登る。
5ピッチ目 下から見えていた雪の塊は結構デカくてワンピッチの雪稜 40m
続く6ピッチ目 雪稜正面の壁は登れそうになく、ラインを変えるために 30m雪壁の下り。
これで既存のピナクル尾根のルートに合流だ。
時間的に本日中のピナクル完登は無理そう。いい感じの三方囲まれたビバークポイントになりそうなシュルントがあったので、ここを整地することに決め、ワンピッチフィックスしておくことにした。
7ピッチ目 50m V 出だしのスクイーズチムニーを楽しむ(?)パートナー
上部はコーナーだが、傾斜があり悪い。私は翌日ユマールしたが、冬靴でのリードは結構シビれそうだ。
タープとツエルトでのオープンビバークだったが、3方壁に囲まれているのでそこまで寒い思いをせずに済んだ。
他に泊まれそうなところは全くなかったので、この状況ではベストと言って良い快適なビバークポイントだった。
5月4日
朝一フィックスをユマーリングしてからの
8ピッチ目 30m III
汚いコーナーを登る。
だいぶ登ってきた。振り返れば絶景だ。
9ピッチ目 35m IV+
大凹角。唯一フラットソールを使用したピッチ。
10ピッチ目 V
最終ピッチだ。ワイドからのボロいフェースを抜けてピナクルのトップへ。オールフリーでの完登に成功。
ワンピッチのクライムダウンでピナクルのコルへ。
実質のクライミングセクションは終わりだが、まだ気を抜ける斜度ではなく、ロープを結んだままランニングコンテで200mほど雪の急斜面を登る。
私はここで、シール登高に切り替え。写真見ると結構な斜度であった。しかも下程傾斜が強く、滑落すると崖から飛び出しかねないので結構ヤバい。
笠ヶ岳山頂!ずぶ濡れのロープやギアはずっしり重くなり、ヘロヘロであった。
山頂から笠ヶ岳山荘までひと滑り。
山頂南面の雪が思いっきりモナカでこの滑りが一番難しかった
笠ヶ岳山荘の冬季小屋を利用させて頂く。四方に壁もあって足も伸ばせて最高。
5月5日
この重荷でエキストリーム滑走をする気はないので、抜戸岳の手前2753mピークまで稜線をたどっていく。
さあ、いよいよ滑走だ。2753mピークより杓子平に向けてドロップ。
雪質もナイスザラメで最高。雪も安定していてスタートを一日遅らせたのは大正解だろう。
抜戸岳をバックに。ちなみにパートナーは、ショートスキー+冬靴の足回り。あの重荷でよく滑るものだ。
ノートラックの大斜面を独占!
陽の当たらない穴毛谷下部は、この時間だとまだカチカチであった。雪が緩むのを待つため、安定したハイマツの茂みの上で30分ほど昼寝ののち、穴毛谷下部へ
そのままだと穴毛大滝の上に出てしまうので、大滝上100mくらいのところでワンポイント数メートルヤブを漕ぎ、大滝をパスできるザイテンタールと呼ばれるルンゼに移る。
なかなか絶妙な地形だ。
大滝とザイテンタールをバックに
穴毛谷下部の滑り。落石の地雷はそれほど多くなくてまずまず快適に滑ることができた。
最後の堰提下の渡渉ようやく安全地帯に戻ってくることができた。
少しでも、軽快な装備にしたい。けれど、スキーもクライミングもこなさなくてはならないため、それなりの強度は必要だ。そのため、今回はパンツにエバーブレス®バリオを選択したが、GWでもあり、ちょうど良い選択であった。
なお、ジャケットはさらに軽量コンパクトだが比較的生地の摩耗強度の高いエバーブレス®レグンを使用。ただ、引き裂きなどの強度は軽さなりなので、それなりに気を使う必要はある。