日本最大の岩壁、奥鐘山西壁。
60年前の初登以来、フリーのラインはまだ2本しか拓かれていないこの壁に3本目のラインを拓こうという意欲的なプランに加えてもらって、2022年7/28~8/1の5日間かけてトライ。16ピッチ、610m 5.10Cの日本最長のアルパインフリールートとして、全ピッチ完登に成功した。
広島ルート、シーバップルート、中央ルンゼの3つの既存ルートをつなぎ、フリー化しながらミニルボルト・グラウンドアップで登ろうというのが今回のルート。
弱点をうまくついていて、グレードは基本5.10台に収まっている。ボルトはビレイ点のみ最低限の打ち直しを行っているが、基本ミニマルボルトで特に前半6ピッチ(広島ルートのフリー化部分)はビレー点以外はほぼノンボルトのトラッドスタイルで登ることができた。
■アクティビティ日 2022年7月28日~8月1日
上部ルート
下部ルート
辿ったラインは概ね画像の赤線のとおり。(2枚目の画像は2009年秋に下の廊下をたどったときの写真なので現状からは変わっているかもしれない。各ピッチの切れ目はあいまいです)
ルート名「Triple road」としたい。
壁の性格上どうしてもヤブは多いが、要所ではしっかりとした岩のフリークライミングを要求される。各ピッチのグレードは以下の通りだが、どのピッチもグレードでは表しきれない悪さはあるので注意されたい。
1P IV+ 45m
2P IV 30m
3P 5.8 30m
4P 5.10b 25m
5P 5.10a 50m
6P IV+ 25m
7P IV+ 50m
8P IV+ 50m
9P 5.7 55m
10P 5.10a 20m
11P IV+ 25m
12P IV 45m
13P IV 30m
14P IV 40m
15P 5.10c 40m
16P 5.7 40m
※ルート図を含めた詳細記録を2023年3月のRock & Snow 099に掲載予定です
私以外のメンバーは、試登も含めて今回で3回目の挑戦。
天気が心配されたが自分的には珍しくいいほうに転んでくれた。
なお「日本に岩場」などに載っている駅構内を通過するアプローチは現在は使えず、今回は欅平から黒部川を遡行することにした。このアプローチは水量が多いと厳しいだろう。
途中にある凱旋門みたいな形の雪渓が転がっていたりしたが、概ね問題なく短時間でアプローチができた。ただ、このアプローチ中にリーダーFさんが足を負傷して歩くのもしんどそうな状況に。
敗退が頭をよぎったが、下部の登攀を残りのメンバーで行う間に回復することを期待、そのまま続行する。
取り付きについて、チロリアンなどの工作(これがないと毎回川を泳がなくては取り付けない)を終え、時間があるので下部2ピッチにフィックスを張りに行くことにした。
1ピッチ目。既存の広島ルートと同じ取り付きからスタート。グレードは、IV+ということなのだが、これが悪い。全体として、ヤブと泥と濡れで体感グレードは高めだ。
2ピッチ目は、藪の中のすっきりとした岩を拾いつつ登る。
ここでこの日は終了して、フィックスして下降。
チロリアンブリッジをつたって、ベースへ戻った。
ベースの河原は平らで薪も無限にあって超快適。でも蚊がすごい。
また、上流で雨が降ったときなど、この場所では何も降っていなくても猛烈に増水することがあると聞いた。試登時に一回やられたらしい。
2日目。Fさんはまだ足の調子が悪く、二人で手持ちのロープフィックスできる限り、ルートを伸ばすことにする。
3ピッチ目はバンドから凹角を登る。ワンポイント、苔むしたハングのアンダーから乗り越すところが核心だ。
下部のピッチはボルトはビレイ点のみ打ち足し、ランナーはほぼカムと、一部既存のボロいボルトを気休めに使ってフリーで登ることができた。
5ピッチ目。ハング下を長く左上し、ハングの途切れたところから凹角を登って、最後の露出間のあるフェースからスラブに乗っ越し、ボサテラスまで。爽快感のあるピッチだ。
3~5ピッチ目が下部の核心だろう。手持ちの4本のロープでフィックス可能な限界の6ピッチ目まで登って、いったんこの日は終了。これ以上上は生活道具を上げながらの登攀となる。
フィックスをたどって下降するが、大きくトラバースしているので一筋縄ではいかない。これ、荷物を持って登るの大変だな・・・
写真真ん中あたりに人が写っているので、スケール感がわかるだろうか。
3日目。Fさんの足もかなり回復し、ようやく3人で登れるようになった。ここからは壁泊装備をもってGo Upだ。
下部の登り返しは、トラバースが多いこともあってラストの人はかなり振られながらのユマーリングで苦労した。
7ピッチ目。ここからはリードは空身で、残り二人が荷物をもってフォローかユマーリングで登るスタイルになる。
8ピッチ目。快晴の中。岩壁のど真ん中を大きく左にトラバースしていく。しかし暑い!
9ピッチ目の途中でぽつぽつと降り出した雨は、やがて土砂降りとなった。
大雨になったとき、私は8ピッチ目の終了点テラスに、二人は9ピッチ目の終了点にいたのだが、そのまま私は8ピッチ目テラスに待機し、二人はそのまま10ピット目の登攀へ。
このピッチ、シーバップルートの核心の5.10bのピッチで結構ヤバいのではと話していたところだが、雨の中見事にオンサイト成功したようだ。(僕らは5.10aとした)
この後、9ピッチ目終了点に戻って3日目の泊り場とした。眼下の黒部川は濁流で、あたり一面滝になっていたが、おかげで水の補給ができた。この雨がなかったら深刻な水不足になっていたかもしれない。
翌朝、天気はすっかり回復して岩も一瞬で乾いた。12ピッチ目の大トラバースに出ていくところ。
14ピッチ目。ここから中央ルンゼルートに合流。中央ルンゼはフリー化されているか、中間部が大きく崩壊して今はこのラインを通して登ることはできなくなっていると思われる。このピッチは快適なフェースだ。
そして15ピッチ目。登山体系的にはVI-とのことだが、見るからに悪い垂直の泥壁だ。
まずは私がトライしてみたが、予想通り非常に悪く中間でフォール。カムがしっかり決められていたので、問題なく止まったが、泥壁6級とでも言いたくなる悪さ(最終5.10cとしたが、体感はずっと悪く感じるだろう)
交代したFさんが吠えながらフリーで突破したが、ここが全体の核心だろう。
最終16ピッチ目は楽しい凹角のフリーであった。
4日目も夕方は夕立に見舞われた。みるみる中央ルンゼは大滝と化した。下降中のメンバーは滝行のようになってヤバかったようだ。そのまま、14ピッチ目のビレイ点の比較的大きなテラスに泊。
5日目は下降。途中、中央ルンゼの崩壊したエリアを通過していくことが予想され、ロープの流れに気を遣おうと確認して下降に入る。
ボルトを足しつつの8ピッチの下降で河原まで。ハング越えなどもあり、ロープの流れにはかなり気を使う下降で半日がかりであった。
晴れれば灼熱の岩壁だが、L2一枚ではなく、ドライレイヤークールをベースに着用した。5日間着っぱなしだったが、汗のべたつきも感じにくく、ニオイもほぼなく、快適であった。暑い時はできるだけ薄着!と考えている方にも、ぜひ試してもらいたいレイヤリングだ。