宗谷岬から襟裳岬まで南北に約670kmにもわたる北海道分水嶺を、積雪期に単独縦断した野村良太さん。植村直己賞を受賞したチャレンジの根底にあるのは、山の奥深くに分け入りたいという衝動。そして、山の奥深くではとにかく速く乾くウエア選びが大事だといいます。
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野村さんは小・中・高校生時代は大阪で野球漬けで、山と出会ったのは大学生になってからとのこと。引っ越した先の北海道で、北海道らしいことをしたいと門扉を叩いたのが、北海道大学のワンダーフォーゲル部でした。
4月末に入部し、5月頭には先輩に教えてもらいながら雨具、登山靴、バックパック、寝袋などのテント泊装備一式を揃えてテント泊登山の予行合宿をしたのち、5月末には30kgもあるバックパックを担いで、残雪期の大雪山を1週間かけて縦走。
ワンダーフォーゲル部伝統の洗礼も、「大変だったけど、楽しかった」と笑いながら振り返る豪傑さ。天気も部の雰囲気もよかったというこの大雪山が原体験となり、毎週末は山行計画で埋まるほど山にのめり込んでいったといいます。
ーいきなり長期縦走だったんですね。
休みを長く取れるのは大学生の特権ですよね。大学時代には春も夏も1週間くらい日高山脈に入っていました。あの山域は、登山道がまともにないからか人の気配も全然なくて、ありのままの自然って感じもあって、とても好きです。
ー1週間とはまた長い!
山頂に立つことだけが目的ではないですから。沢を登ったり、藪を漕いだり、稜線を歩いたり、ひとつの山行でいろんなことをやって、山を遊び尽くしたいんですよ。
だから、目標の山のだいぶ手前から山に入ります。沢を登って下りて、また沢を登ってカールに泊まって、稜線を歩いてまたカールに泊まって、沢から下りるなんてこともしました。
ー登山道を歩くことはあまりないんですか?
登山道を歩くのも楽しいんですけど、より自由に、より山の懐にって求めていたら、そういうスタイルになっていましたね。
ー北海道分水嶺縦断もあってか、単独行のイメージが強かったです。
ワンダーフォーゲル部に在学中は、部のグループで山に入っていました。部を卒業してからの2年間は、単独で日高や知床に入ることが多かったですね。
ーその単独行から北海道分水嶺縦断のチャレンジに繋がったのですね。
そうですね、大学を卒業したら山岳ガイドになりたかったので、山岳ガイドに付いて見習いをしていました。山のプロになるなら、なにか自信になるようになることがしたいと考えていたんです。そんなときに、『北の分水嶺を歩く』という一冊の本に出会って「これだ!」って。
ー部活の山行と単独行のテント泊の違いはありますか?
まずは荷物が増えます。仲間と共同装備を分担できないので、テントも火器類も食糧も、全部自分で背負わなくてはいけません。そして、たとえヘッドランプが壊れるなどのトラブルが起きても、仲間に借りたりすることもできません。
だから、単独行をする前には、その前の山行の反省点を活かしたりもしながら、徹底的に準備します。
ー長期で山に入るとき、荷物はすごい重さになりそうですね。
着替えや防寒だけの保温着などの必須ではない物は削りますが、動くためのエネルギーとなる食糧は削りません。一度、軽量化を追求して食糧も削ったことがあったのですが、、シャリバテのように動けなくなったんですよ。エネルギーって大事なんだなって改めて気づかされました。
大学のときは毎食米1合食べてエネルギー摂取していましたが、若さですね。いまは軽さとのバランスも考えて、量よりもカロリーの高い食糧を選んでいます。世の中にはカロリーハーフってありますが、カロリー2倍ってやつが欲しいくらいです。
ー動くためのエネルギー補給のほかに、長期山行を歩き続けるためのこだわりは?
睡眠は大事にしています。しっかり眠れていないと、翌日のパフォーマンスが半減するので。寝る直前に温かい飲み物を飲んで体をあたためたり、雪のある時期には足先が冷えないようにテントシューズを履いたりしています。
あと、尿意で目が覚めたら我慢しません。せっかく暖まった寝袋から出たくはないのですが、我慢していると寝たり起きたりを繰り返して、睡眠の質が下がってしまいますよね。それならサッと済ませて、朝まで快眠した方がよっぽどいいです。
ー快適な睡眠のためなら、寝る用の着替えもあった方がいいと思うのですが。。。
寝巻きとか、快適さだけのための着替えは軽量化のため持っていきません。持っていったとしても、最低限の下着だけですね。濡れたウエアは着て乾かせばいいし、単独行ならニオイのエチケットも気にする必要もありませんから。
ーウエアにはこだわりがあまりなさそうですが。。。
大学時代はお金がなく、どうしても必要なギアを揃えることで精一杯で、ウエアまではなかなか手が回りませんでした。でも、ワンダーフォーゲル部の先輩で、ファイントラックに入社した方からエバーブレスのアウタージャケットをもらったときに、驚きました。こんなにも動きやすいアウタージャケットがあるのか、と。
ーアウタージャケットってたしかにパリッとしたイメージがあります
いままで使っていたアウタージャケットは、動きにくさがすごくストレスで、仕方なく着るっていう感じでした。でもアウタージャケットって、稜線で風をよけるためとか、テント場でちょっとあたたかさが欲しいときとか、けっこう着るシーンが多いんですよ。その時に感じる小さいストレスの積み重ねが、山に入っているのが長くなればなるほど精神的にくるんですよね。
ー小さなストレスでも、塵も積もればってやつですね。
でも、ほら、見てください。エバーブレスはすごく伸びるんです。着ていてとても楽なので、なんの抵抗もなくなって、ちょっとした風でも「とりあえず着ておくか」ってなりました。
ー長期間だとなおさら、ウエアの使いやすさは大事ですね。
それと、ウエアには自分の体温でフラットに戻せることも大事だと考えています。
行動中の汗などで濡れてしまっても、着たまま過ごしていれば乾いているウエアがいいですね。さきほどもお話しましたが、軽量化のために着替えはほとんど持っていかないので着乾かしが基本です。ですが、いつまでも濡れていると不快ですし、体が冷えやすくなります。かといって、一度濡れてしまったものを、ストーブなどで乾かせるほど燃料に余裕がないので。
ーウエアの濡れはリスクでもありますしね。
そうなんですよ。だから、ファイントラックのドライレイヤーには感動しました。1枚着るだけで、肌面の汗の乾きが全然違います。
ニオイもあまりしないですよね。2ヶ月間1回も着替えないで縦走して山から下りてきたときも、周りのみんなから「もっとケモノのように臭いかと思った」と言われて。それはたぶん、汗のにおいが発生する前に乾いちゃうほど乾きが速いドライレイヤーのパワーなんじゃないかなと。
ー汗を効率的に速く乾かすファイントラックのレイヤリングシステムはドンピシャ?
だから、北海道分水嶺縦断もファイントラックの5レイヤリングでチャレンジしました。
その中でも、とくに気に入っているのはポリゴンウエアです。ダウンだと1週間以上使い続けるとへたってきますし、濡れてしまうと保温力が低くなってしまいます。山の中でそれを回復させようと思うと大量の燃料が必要になってしまいます。
ポリゴンウエアは、行動中にかいていた汗も、着ていれば寝る頃にはほとんど乾いています。防寒着にもちょうどよくて、1枚で2役活躍するのもいいですね!
―野村さんにとって、テント泊とは?
高校生まで山に登ったこともないのに、いつのまにか山にどっぷり。人の気配がない原始的な山の奥深くで過ごせるテント泊って、いいですよね。すっかり人生観が変わりました。いまは山岳ガイドをして、北海道の山をお客さんに案内するほどに。北海道分水嶺縦断の成功も、山岳ガイドとしての大きな自負になりました。
ー次はどんなチャレンジを?
秘めている計画があります。ただ、まだ内緒です。単独のチャレンジを成功させるために、徹底的な準備中です。また近々お話するので、楽しみにしておいてください!
構成/文 大堀啓太
撮影 金田剛仁(ハタケスタジオ)
【教えてくれた人】
野村 良太(のむら りょうた)さん
1994年大阪府生まれ。北海道大学ワンダーフォーゲル部で登山を始め、同部の主将を務める。2022年に、史上初となる単独・ノンサポートで積雪期の北海道分水嶺を縦断し、同年の植村直己冒険賞を受賞。
現在は、札幌で登山ガイド(日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ)として活躍する。
肌をドライに保ち、体温を守る、メッシュのアンダーウエア「ドライレイヤー®」の定番シリーズです。finetrack独自の「撥水」技術によって、かいた汗は瞬時に肌から離れ、肌をドライにキープ。汗冷えを抑えます。テント泊では着替えやエマージェンシー用としても役立ちます。
独自開発のシート状立体保温素材「ファインポリゴン®」を2枚封入し、適度な保温力と軽量性を追求したミッドレイヤー。ファインポリゴン®は保水しずらく速乾性に優れるため、寒い時には行動着として、暖かい季節には携行保温着として。オールシーズン活躍します。上下とも200g前後という軽量コンパクト性も備えテント泊には常に持っていきたいアイテムです。
非常に動きやすく、しなやかで快適な着心地の防水透湿アウターシェル。「着心地が悪いけど雨だから仕方なく着る」といったこれまでのレインウエアのイメージを覆すエバーブレス®フォトンは、雨の日のみでなく、風を凌ぐためや寒い外気温を遮るためなどシーンを選ばずマルチに活躍します。