DRY LAYERING ドライを重ねる 5レイヤリング

投稿者: 菊池 奏子・片岡 美菜

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スタッフの遊び記録
ACTIVITIES

南アルプスが好きだ。
懐の深い山並み、簡単には人を寄せ付けない長いアプローチ、色の少ない地味めな景色 (褒めている)。

いつも週末の山の予定は直前まで決められないけれど、せっかくの年末年始、長めの休み。大好きな山域を思う存分歩きたい。
そんな思いを共有する山の相棒とともに、南アルプス南部に狙いを定め、新年早々東へ向かった。

■アクティビティ日:2024年1月3日 ~ 2024年1月6日

1日目
冬の南アルプスに向かう者を待ち受ける最初の関門、それは「林道歩き」。

これまでも数々の水平移動をこなしてきた私達だが、今回の畑薙ダム~椹島は、なんと全長17km。めでたく記録更新だ。

冬の風物詩こと、縦に長いザック

冬は何かと荷物が増えるもの。それに加え、3泊4日分の食料+お酒その他諸々を積み込んだザックは、両肩と背中にずっしりとその存在を主張してくる。

シーズン初めのなまった身体にはなかなか堪える重量感。
先人の偉大な知恵にあやかって、リアカーを導入すれば良かったか…。

林道あるある:3キロは進んだだろうと思ったら1キロしか進んでいない

ご親切にも0.1kmごとに距離を刻んでくれる道標を横目に、のそのそと歩く。

時折ザックの重さにうめきつつも、順調に歩みを進め、12km地点の赤石ダムを通過。

椹島までもう一息、という15km地点。
肌に冷たい雫を感じ、空を見上げると、

あれ、雨?
そう言っている間にも、雨は結構な強さの本降りに。
これから雪山に登るのに、濡れるのは何としても避けたい2人。

「もうここに張っちゃう?」「そうしましょうかあ」

話し合いの末、装備を濡らさないこと優先に、初日はここまでとすることに。
林道脇になんとかスペースを見つけ、今日の宿を設営する。
なんだか先行き心配なスタートだが、そんな一抹の不安は一旦忘れ、シュラフにもぐり込んだ。

2日目
夜遅くまで、テントの屋根には雨が当たる音がしていた。
朝になっても降り続いていたらいやだなあと思っていたけれど、どうやら止んだみたいだ。

今年は冬季小屋の開放が無いということで、ひっそりとしている椹島を通過。
大井川にかかる吊り橋を渡ると、ようやく登山口だ。

暖冬少雪の今シーズン。
春の陽気の中を登っていくと、標高1500m地点くらいからやっと雪が出始める。

冬でもこんこんと水が湧き出る清水平。
南アルプスの天然水でのどの渇きを癒し、さらに上を目指して歩く。

清水平の少し先、この日唯一の展望スポット。
ここまで、スタートから丸一日以上。
やっと、今回の目標である悪沢岳はその姿を見せてくれた。


この奥ゆかしさよ…。そこがまた良い…

この最高のロケーションでテントを張ってしまいたい誘惑と戦いつつも、今日の目的地である千枚小屋に向けて歩く。

展望台から先は、ひたすらに樹林帯の登り。
それほどの急登では無いものの、なんせ長い。そして荷物は重い。

冬の日暮れは早く、空には夕方の気配が漂い始める。
何となく予想はついていたけれど、これ、小屋着く頃には日が落ちるな…。

昨日の雨で濡らしたテントを思うと、今日は何としても小屋までたどり着きたい。
冬の日の落ちる速さに追いつけるわけもなく、あっさりとヘッデンラッセルが確定。

お正月からハードモードです

次第に雪深くなっていく樹林帯を、月明かりも頼りにえっちらおっちらと登る。

 

対して前を行く片岡は、膝までの新雪をものともせず、サクサクと進んでゆく。彼女は、雪の上だと歩行速度が夏の1.5倍になるのだ。道産子おそるべし。

先行する片岡のヘッデンの明かりが、動きを止めたのが見えた。
やっと着いた? 期待を胸に近付くと、そこには、

雪にすっぽりと埋まる、千枚小屋。

ええ…
思わず漏れる心の声。

こんもりとした雪の丘から、頭だけを覗かせていている千枚小屋は、どう見てもたどり着ける状態ではない。
このとき味わった絶望感は、間違いなく2024年ナンバーワンになることだろう (そうであってほしい)。

「テント、建てますか…」「そうだね…」

あれ、こんな会話昨日もした気がする…。
デジャブを感じつつ、疲れ切った2人は、月明かりの下、立派な小屋を目前に、整地もそこそこにテントを建てたのだった。

3日目
整地をさぼったがために、全身をバキバキにして目覚めた翌朝。
明るくなって改めて見てみると、昨晩絶望した小屋前の積雪は、激しいラッセルにはなるものの、どうにか辿り着けるレベル。
なんとか雪をかき分けて小屋にたどり着き、ありがたく屋根の下で装備を整え、いざ、ピークを目指す。

小屋の裏手から取りつく。小屋裏の急登はかなりの積雪量で、ここでも中々に厳しいラッセル。


よく埋まるパフパフの新雪

しかし、昨晩の苦行に比べれば、青空の下でのラッセルなど、なんてことはない。
二人で交代しつつ雪を漕ぎ、急登を登る。

見上げれば赤石岳、悪沢岳。振り返れば富士山。
そんな素敵なサンドイッチで挟まれながら、徐々に視界が開けていく道を行く。遮るものが無くなってくるにつれ、風は強くなっていく。

山頂直下は、強風で雪が吹き飛ばされ、岩が露出している。ワカンをアイゼンに履き替え、ストックをピッケルに持ち替え、最後の登り。


もう少し!

歩く先の地面が途切れて、視界に空が広がっていく瞬間が一番嬉しい。ピークだ!
いやあ、ここまで長かった。

千枚岳から悪沢岳を望む


南アルプスの山々を一望!

強風にあおられながら景色を楽しみ、二人顔を見合わせる。
さあ、この先どうする?

この先、中岳、悪沢岳へと道は続いている。どこまで行けるかは現地で考えよう、と話していた。
しかし、ここまでの予想を超える積雪量、かかった時間、風の状況、様々勘案し、この先に進むのは得策ではないと判断。とても残念だが、ここ千枚岳までで引き返すことに。

山では判断の連続。ひとたびその判断を誤れば、危険はすぐ迫ってくる。
もう少し行けたかも、それくらいでいいのかもしれない。また来ればいいんだから。

また来るよ

雪をかぶった美しい悪沢岳の眺めに後ろ髪をひかれつつ、目の前の富士山にも目を奪われつつ、小屋まで下りて行く。

さて、千枚小屋。
たとえ3泊4日の山行であろうと、食担片岡の辞書には、妥協の2文字は無い。

喫茶店(標高2600m)

なかなか山行中にお目にかかることの無い、丸ごとの玉ねぎを颯爽とザックから取り出し、出来上がったのはナポリタン。

このために登っている節は大いにある

南アルプスの雪を沸かしたお湯割りで乾杯。ああ、最高に幸せだ。

快適な小屋に感謝しつつ、思う存分足を伸ばして眠りについた。

4日目
出発の準備を済ませると、東のほうが赤く染まり始めている。
視界には富士山と、昇りゆく朝日。なんともおめでたい眺め。


年賀状にしたい景色ナンバーワン

2日前に大いに苦労して登った道のりは、下りであればあっけなく、半分ほどの時間で済んだ。
足と膝にそれなりのダメージを食らいながらも、椹島まで無事に帰還。

もうあるけない

お疲れ~では解散! と言いたいところだけど、残念ながら、我が愛車はこの先17kmの林道の先。

結局、本当にお疲れさまを言い合えたのは、とっぷりと日も暮れたころ、椹島を出てからさらに5時間ほど経ってからのことでしたとさ。

さあ、次はどこに行こうかな。
ついさっきまで、もうこんな大変なことはこりごりだ、と言っていた自分はどこへやら。
次の山への期待を胸に、帰路についたのでした。

遊びのMVPアイテム

エバーブレス®アルパインゲイター

今回の山行で初めて使ったところ、大ヒット。不器用な自分にとって、凍り付いたゲイターのファスナーを上げるのは至難の業。手を凍えさせながら格闘し、同行者を待たせることもしばしばでした。このゲイターは、ベルクロをべりっと剥がすだけの簡単仕様で、着脱のストレスがほぼゼロ。これまでの苦労は何だったんだ!
足回りに着けるものが多い冬には、シンプルで壊れにくいものがうれしいですね。私のように不器用さに自信あり、という方だけではなく、全雪山登山者におすすめしたいアイテムです!

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執筆者:販売促進営業課 菊池 奏子 / カスタマーサービス課 片岡 美菜

2022年入社

入社3か月違いのほぼ同期。人のあまり入らない、のんびりと歩ける山域を好むという共通点から、よく一緒に藪を漕いだり雪を漕いだりしている。テントでのお酒と食には妥協しないというモットーのせいで、いつも誰にも頼まれてもいないのに歩荷になる。

※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。

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