谷川岳のメインルートである天神尾根から西側に、一際美しく聳える秀峰がある。谷川連峰・俎嵓(マナイタグラ)。厳冬期は稜線からスパッと切り落ちた山肌が見事に雪化粧し、谷川ブルーを纏った姿はあまりにも神々しく、岳人を魅了する。居酒屋山行コンビの我々も、昨シーズンに国境尾根から見た爼嵓の美しさに息をのみ、いつか行きたいと思っていた。
しかし、いかんせん豪雪の谷川連峰。通常の積雪であれば激ラッセルが予想されるものの、幸か不幸か、今年は積雪が少ない。これは…チャンスとするべきか。
「本当の谷川岳」を目指し、年始早々、水上に向けて車を走らせた。
■アクティビティ日:2024年1月4日~1月6日
谷川連峰にある「俎嵓(マナイタグラ)」。
実は本来、この山が「谷川岳」で、国土地理院の誤記によりトマノ耳・オキノ耳に「谷川岳」という名前がついたという、嘘のような本当の話がある。
この俎嵓、すっかり人気は「現・谷川岳」に取られてしまい、厳冬期となれば行く人は稀である。しかしながら国境尾根から一望する、オジカ沢の頭から続く俎嵓の山容は、カッコ良すぎて息をのむ。そして、一度は行ってみたいと心が躍るのだ。
さあさあ、あの誰もいない真っ白な稜線へ、新年のトレースを踏もうじゃないか。
昨年みた俎嵓。「なんだ、あのカッコいい稜線は!?」これが忘れられず今回の山行になった。
1月4日(木)
この日は朝から暴風雪。西黒尾根から攻めるか、ロープウェイを使って天神尾根から行くか、一瞬迷ったものの、二人して瞬殺でロープウェイをチョイス。
・・・だって、暴風雪なんだもの。
素敵なカフェ(by星野リゾート様)でランチを食べ、優雅に風がやむのを待つ。
しかし、どんなに待っても、ずっーーと、暴風雪。やばい。このままだとお尻に根が生える。名残惜しすぎるが、エイヤっと外に飛び出し、日没まで行けるところまで行き幕営。夜半には風もおとなしくなった。新年の乾杯!
1月5日(金)
さあ、早速今日は勝負の日。夜明けと共に行動開始だ。
動物のトレースしかありません。ひたすらラッセル
昨日の暴風雪で、もちろん天神尾根はノートレース。
かわいい足跡がいっぱい。夜歩いていた姿を想像するだけで楽しい。ラッセルの疲れが安らぐ。
灌木が見えており、昨年と比べて雪は少ないが。。
「もおさぁ、前回も私ら、超メジャーな天神尾根でラッセルしていたやん(※去年も天神でノートレースだった)。早く誰か追いついて来ないかな。」と、山ヤにあるまじき愚痴をこぼしながらラッセルは続く。
いや、しかし。ノートレースこそ、雪山の醍醐味。
ラッセルこそ、雪山を目指す岳人の使命(・・本当?)。
お酒で重くなっている装備を担ぎ、一歩一歩を踏みしめる。
朝一のロープウェイ組が追い付いてくれれば楽になるのだが、結局この後、ほぼ肩の小屋直下まで、私達がトレースをつけるのであった。
肩の小屋を国境尾根方面へ少し下ると絶景が拡がる。
国境尾根に乗った。オジカ沢の頭がおそらく核心。
おお!見えた!俎嵓だ!
「現・谷川岳」をとりあえず一瞥し、はやる気持ちを抑えて国境尾根へ。
手前にオジカ沢の頭。奥に見えるは俎嵓。
今日中に、なんとしても俎嵓のトップに立ちたい。そして俎嵓が見えるちょうどいい場所で幕営して、とっておきのビールで祝杯を挙げるのだ。
ロープはいるだろうか?オジカ沢の頭に向けた岩稜はじまる
核心のオジカ沢の頭が近づく。
遠目からはどこに取り付けばいいのかわからなかったが、近づいてみれば何となくルートがわかる。
切り立った岩稜ではあるが、一部鎖の露出もあり、上りではロープは使用せずにクリアできた。
核心は無事越えた。良かった、良かった。
が、しかし、安心している場合ではない。明日の夕方からは天気が下り坂だ。
本日中に俎嵓へ行かなければ。
オジカ沢の頭を下った場所に、絶妙な窪地を発見。
ここに泊まり装備をデポし、俎嵓へピストンすることにした。
現在14:00。
17:00に必ずここへ戻るとしてタイムリミットは3時間!!
さあ、いくぞ、俎嵓!!!
進行方向の左側は幕岩尾根にむけて、完全なる断崖絶壁。
そしてバカでかい雪庇が張り出している。踏み外しては命がない。
尾根も一部、細い場所があるので緊張は続くが、天候に恵まれて視界は良好。着実に歩を進めば大丈夫だ。
広大な谷川連峰の中で、銀嶺となって輝く俎嵓は本当に美しい。そして、国境尾根の先に目をやれば、はるか遠くに万太郎と平標が、たっぷりと雄大な山塊となって連なっている。長い道のり(&多分、激ラッセル)だが国境尾根の厳冬期縦走も面白そうだ。
15:20に登頂!はい、そんなトコで寝ちゃ危ないよ。起きて、起きて。
素晴らしい時間配分(自画自賛)にて、俎嵓TOPに立つ。
いやあ、新年から大満足だ。テン場に戻って祝杯だ。
登頂後イエーイ!
気分アゲアゲで写真をパチリ。
徐々に日が傾いて、影が長くなってきた。冬山の夕暮れは早い。
急いでデポ場に戻らなくては。
そして、タイムリミット17:00ちょうどにデポ地に戻ったのだが、夕方から日本海からの爆風が牙をむき始めるという、冬山あるあるの事態に。
テントが暴れて立てられないし、中山のアイゼンが凍てついて外れないし、テンヤワンヤの状態に。
テントをなだめすかして、何とか立てて、2人でテントになだれ込んだものの、爆風にあたって、もはや気分はダダ下がり。
2人ともヘロヘロになってしまったが、私達は居酒屋山行コンビだ。
いかなる時も、祝杯を忘れてはいけない。
「・・・ビール、のむ??」
「・・のもう!」
凍えながら、乾杯!
「夕焼けに染まる俎嵓を、テントから眺めながら優雅に乾杯♪」、という未来予想図からはるかに外れたが、まあ、良い。
長い一日だった。冷えた身体に、とっておきのビールが染み渡るのであった。
1月6日(土)
昨夜の爆風はいったい何だったんだ!? と思うほどの快晴。
まあ、これも冬山あるある。暴風雪になっていないのだから上出来だ。
登りはノーロープだったが、下りはロープが必要だった。
数カ所、いやらしい箇所があり、懸垂で降りていく。背景には俎嵓が美しい。
オジカ沢の頭を越えて、肩の小屋まで見えてしまえばもう安全地帯だ。
天神尾根に合流してみれば、沢山の登山客でにぎわっていた。
行きとは打って変わって、完璧なトレースが踏まれており、歩きやすいことこの上ない。
「近くてよい山」
谷川岳はそのように称される。厳冬期にこれほど沢山の登山者が訪れるということは、首都圏の岳人にとっては本当に身近な山なのだろう。
関西人の私達には遠くて仕方ないが、それでも夏は沢登り、冬は雪稜と、四季を通じてこの山に来てしまう。魅力的な山域だ。
さて、次はどのルートに行こうかな。
西ゼンを越えて、平標へ詰める沢登りは、どうだろな。
まだまだ、谷川連峰へ通うことになりそうだ。
下山後のご褒美メシ。水上で絶品焼肉&ビールで乾杯!!
エバーブレス®スノーラインビブ
生涯初めてのビブがこのスノーラインビブでした。驚いたのは、その温かさ。胸までシェル素材の布があるということが、こんなに温かいとは!おかげで、テントの夜も腰周りがスース―することなく安心です。
また、ウエストを締め付けるモノがないので、クライミングハーネス装着時も、テントの中で座っている時も、お腹周りが非常にラクなのも気に入っています。
3つ目のポイントは、トイレのしやすさ。腰から下に伸びる左右ファスナーを下ろすと、そこだけ皮が剥けるかのように後方が大開放。女性でも、最小限の手順でスイスイとはかどります。
正直、もうパンツには戻れない。そんな気にさせられる一着! (中山喜久子)
執筆者:マテリアル開発課 田中 由希子
2015年 入社
京都生まれ。同期の中山と、アウトドア&アルコールに勤しむ日々を送り、社内の愛称(?)は、居酒屋山行コンビ。元々は昆虫生態学を専攻し、山で虫を追いかけていた。最近、昆虫とキノコの採集方法に共通点を発見♪ 写真は中山撮影の「キノコとタナカ」
執筆者:eコマース課 中山 喜久子
2015年 入社
大阪生まれ。ニュージーランドをバックパッキングしている時にTramping(トレッキングの意)と出会い、以来アウトドアと旅とお酒と着物が好き。毎年、雪山のために度数高めの自家製梅酒やリンゴ酒を仕込んでいる。写真はマレーシア・マラッカの屋台にて。
※自然の中でアクティビティを行うためには、十分な装備、知識、経験が必要です。事前の準備を徹底したうえで、安全に注意してお楽しみください。