五竜岳東面は、雪のバリエーションルートの宝庫。各雪稜や岩壁は登攀ルートに、その間に食い込むルンゼのラインはスティープ系スキーのルートとして、多くのクライマーやスキーヤーにトライされている。
昨年、「五竜岳GIIインテグラルルート」という新たなルートが発表された。雪稜クライミングが中心のこのエリアにあって、雪壁と氷瀑を繋いでいくラインで、氷瀑部分は50mクラスでこのエリアでは最大だとか。
このライン、GIIトップに抜けるので、無理なくA沢やB沢などのルンゼ滑走ラインにつなぐこともでき、難易度もスキーを背負って登るには丁度よさそう。残雪期シーズンを待って、Climb & Glideスタイルでトライしてみることにした。
■アクティビティ日:2024年4月19日~4月21日
各地から「雪が少ない!」という悲鳴が聞こえてくるこの残雪期。
設定時期が遅かったかなあ、と不安を抱きつつ、ライフイベントをたくさん抱えたこの春シーズン、簡単に予定は動かせない。行ってみて、出たとこ勝負だねと初日は遠見尾根をのんびりアプローチする。
天気は良いものの、時折引きずり倒されそうになる強風だ。
強風で細尾根では緊張する
ベースは西遠見山手前の五竜東面を正面に見る平坦地にし、イグルーを設営
この場所、12年前に五竜岳東面のアルパインルートを登りに来た時もベースにした場所だった。
そのとき偶然その場所で幕営していたパーティと宴会を共にして親しくなり、その中の3人とはその後ディープな山行をともにするパートナーになった。一方、その時のクライミングパートナーは山の事故で亡くなってしまった。この場所に立つといろいろな思いが巡る、感慨深い場所だ。
明日の想定ラインをじっくりと観察する。氷瀑セクションは、正直怪しいかもしれない。
岩壁にぶち当たってしまったら、あの傾斜で登れるだろうか?
下りのB沢がこの場所からは滝でも出ているように見える(全くの勘違いだったのだが)のも気がかりだ。いろいろな状況をイメージしながら、ギアをセレクトした。
明日のラインを観察。不安を掻き立てるような空だな・・・
2日目、素晴らしい好天の中、朝4時スタートでアプローチを開始する
シラタケ沢を超えてトラバースしてA沢に
A沢を少し登ったところの雪壁が右稜ガリーの取りつき。わずかだがA沢を詰める部分が怖かったが、雪面は安定し、落石もほとんど飛んでこなかった。
雪も程よく緩んでいるので、行けるところまではノーロープで行こうとそのまま登攀開始する。
登攀開始!
雪壁を2ピッチほど登ったところが、存在するならば氷瀑があるはず、ただ、遠望した感じでは今年はダメかもしれない。
果たして、氷瀑と思われるのは・・・残念ながら残骸しかなかった。
氷瀑の残骸、か?
ルート上一番傾斜が立っているこのポイント。氷瀑がないと、どう越えていくか。
左を見ると狭いゴルジュ上のルンゼの出口に、細く氷がかかっているのが見えた。覗いてみると、WI3くらいの氷がつながっている。ここが行けそう。
氷と雪と草付きをミックスしたようなルンゼが、氷瀑の上と思われる雪壁に絶妙につながっていた
ひたすらダガーポジションで雪壁を登って、武田菱に到達。
雪面はかなりきれいで、程よく緩みノーロープでサクサク登ることができた。もちろん、ミスは許されないが。
スキー滑走を狙うにも良いコンディションだったかもしれない。
雪壁にアックスを埋めながら、一歩一歩登っていく
武田菱の中は、ルンゼが何度もクロスする面白い地形だ。γ-β-αガリーをあみだくじのようにつないで登っていく。
武田菱の上部、αガリーを詰めあがる
αガリーを詰めあがると、GIIの稜線ルートに合流した。GIIまではもう少しだ。
10時にGII頭にトップアウト。大氷瀑はなかったものの、スキーを担いで登るには程よい一定の緊張感のあるクライミングがずっと続く面白いラインだった。
青空をまっすく貫くヒコーキ雲がきれいだった
さて、ここから稜線を少したどって、B沢源頭まで簡単につないで・・・と思っていたら、稜線側に出るとめちゃくちゃ風が強い。スキーを付けた状態で細い岩稜を通過するのはかなり危険を感じるレベルであった。仕方なく、風裏側の雪壁・草付き壁を、ロープを出して3ピッチのトラバース。思いがけず時間を食いながらB沢に達することができた。
B沢源頭までのトラバース ここでロープを出すとは
B沢はこのあたりのエリアではスティープ入門的な沢。斜面の状況を確認する。出だしは40度ちょっとくらいの傾斜か。比較的広くて雪面状態もナイスザラメ、重荷でも不安なく楽しく滑ることができた。
B沢上部の快適な滑走
遠見尾根からの遠望で(勘違いして)滝が出ているのでは、と危惧したスポットに差し掛かった。覗き込んでみてもいまいち見えず、仕方なく右岸側の細い雪壁を際どいトラバースで、GV稜寄りの広い雪面に移ることにした。
むしろこのトラバースが一番ヤバかったかも
後ほど下から見たらB沢は問題なくつながっていたのだが、この雪面も広くて快適だったので良しとしよう。
荒れ気味だが広い雪面
下部はデブリと深いラビーネンツーク(雪崩の通り道)を避けながらの滑走でシラタケ沢のボトムへ。登り返しもシールなら楽々。すっきりと遠見尾根の泊り地に戻ることができた。
スキーでよかったと思う登り返し
翌日は遠見尾根の同ルートをたどる。スキー向きとは言えない尾根ではあるが、歩きよりはずっと早くスキー場に戻ることができた。
今回のライン(赤線が登り、青線が滑走)
五竜東面をぐるっと周回するかなり面白いラインになったのではないだろうか。
エバーブレス®ウインタートレイルグローブ
程よい保温性と細かい作業をこなせる優れたフィット感を備え、このようなマルチアクティビティの山行にはピッタリ。
残雪期であることもあるが、このグローブ一つでほとんどのシチュエーションをこなせてしまった。
執筆者:商品開発課 相川 創
入社年:2008年
今年、第二子が生まれ、子育てと新しく引っ越した家のDIYに追われる日々。山に行ける時間は貴重なので、マルチアクティビティ路線で濃密に楽しみます!