年の暮れに会社の先輩から「2024年一番やりたいことは?」と聞かれ「テント泊です」と即答した私。
子育てを機にしばらく泊まり山行を見合わせていたが、ようやく機会が巡ってきた。
実に4年ぶりの泊まり山行はのんびり稜線歩きとテントでまったりする計画を立てようとしたが、妻子のある身として時間の制約や昔から楽しみをギュっと凝縮する癖がありいつも山行計画はテンコ盛りにしがちだ。
ちょうど今時トランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)の盛り上がりを見せていたため、つまるところTJARの参加条件を参考に、中房温泉を起点に常念山脈と表銀座ルートをつないで全長約75km、6500mD+を1泊2日でスピードハイクするという計画を立てた。
梅雨明け十日は晴天が続くと言われているが、自他共に認める雨男な私は果たして雨に打たれず歩き通せるのか。
■アクティビティ日:2024年7月20日~7月21日
山行計画が決まってからは、装備を一つ一つ吟味して一週間前にはパッキング完了。
個人的には山行計画を立てる時とその準備をしているときが一番楽しいかもしれない。
あとは天候が良いことを祈るのみ。
入山2日前には関東甲信越地方の梅雨明けニュースを知り、ますますテンションが上がる。
DAY1 ~中房温泉登山口から常念山脈を南下して徳本峠で一泊~
偶然、友人が同日に中房温泉から入山することを知り、穂高駅から中房温泉まで同乗させてもらうことになった。
「徳本峠まで一緒にどう?」と提案したところ、食い気味で無理と言われたため、仕方なく登山口解散となった。
登山届を提出していざ出発
登り始めてすぐにパラっと小雨が降る。
梅雨明け十日はどこへやら。早速、雨男の本領発揮。
私が山に来ると決まって雨なので、いつも私と同じ山域に来ている登山者の皆様にごめんなさいと謝ることが通例だ。
森林限界が近づいてくるとワクワクするが、今日も天気が良くないので気持ちが萎える。とはいえ通常運転なので黙々と合戦尾根を登る。
真っ白だ・・・
燕山荘に到着すると想定通りの景色。
稜線上は暴風雨のため燕山荘から先の縦走を断念して下山される方も少なくない。
晴れていれば絶景の稜線歩きだが、あいにくの天気なので登山者とのすれ違いもほとんどない。
まだ天候回復の兆しはない
時折、身体が浮くような強風を浴び、久々にアルプスの洗礼を受けながら大天井岳へ到着。
長時間休憩すると体が冷えるのでサクッと補給を済ませ、常念岳に向けて出発。
景色が見えないときは決まって心の眼で山座同定をする。
常念小屋が見えた!
少しずつ雨が弱まり、レインウェアを脱ぐかどうか迷っているうちに常念小屋に到着。
多くの登山者が小屋で賑わっているのを尻目に水を補給してリスタート。
ここから常念岳山頂の偽ピークに何度も騙された経験があるので、今回は山頂に着くまで見上げることを禁止することにした。
ここで初日の半分の行程
作戦が功を制したのか、山頂まであっという間に着いたような気がする。
雨も止んだのでここで上下レインウェアを脱ぎ、しばしの休憩。
こうも雨が続くと補給が疎かになってしまうのが悪い癖。
ハンガーノックにならないよう大好物のカロリーメイトを頬張る。
これから歩む道が見えた
先ほどまでの人の少なさに反して常念~蝶ヶ岳の稜線では多くの登山者とすれ違う。
お槍様がチラリ☆
少しずつガスが取れはじめ、ようやくヤリホを目視することができた。
しかし、目の前に蝶槍が見え、いったんガツンと下り、ガツンと登り返しをしないといけない。
ガスで見えなければ精神的に楽なのに・・・と自分本位に考えてしまうのはきっと私だけではないはず。
蝶槍までひーこら登り返し、蝶ヶ岳までのたおやかな稜線を歩く。
風が心地よく、思わず昼寝をしたくなるが今日はガマン。
蝶ヶ岳、大滝山のなだらかな稜線
残念ながらヤリホは雲の中
お昼に蝶ヶ岳へ到着。
さすが人気のテント場なだけあって、すでに色とりどりのテントがたくさん張っていた。
ここで絶景まったりランチ!といきたいところだが、この先も長いのでカロリーメイトを頬張り、テントの合間を縫って次の目的地まで歩を進める。
安曇野がよく見える
大天井と常念が小さくなってきた
蝶ヶ岳より先は人けが少なく山の静けさを味わえるコース。
道は明瞭でとても歩きやすく、アップダウンも少ないので自然とペースが上がる。
大滝山への道のり
振り返れば蝶、常念、大天井の後姿が名残惜しい
樹林帯から湿地帯、ハイマツ帯へ変化に富んだルートで飽きさせない。
熊の出没情報など不安もあったが、熊鈴を鳴らしながら一人カラオケをしているうちに大滝山荘へ到着。
今日(7/20)から営業開始の大滝山荘
ここまで来ればあとは下り基調のコース。
時間に余裕があったので久々に地図を広げてお菓子ボリボリまったりタイム。
日差しが強くなってきたので黒焦げにならないよう日焼け止めクリームを塗りたぐり、本日の宿泊地に向かって出発。
樹林帯の気持ちのいい道がずっと続く
中村新道は前評判通り、人通りは少ないもののよく整備されている。
樹林の稜線歩きなのであまり見通しはきかないが、静かな山旅にはちょうど良い。
中村新道で唯一といっても過言ではない展望台
展望台に登るが、残念ながらお槍様は雲の中
北アルプスとは思えないほど針葉樹や苔など緑が多く、まるで屋久島のような雰囲気を感じさせてくれる。
「徳本峠まであと○km」という看板を見つけてからは1kmごとに看板が立てられていた。GPSウォッチとの誤差もなくほぼ正確な距離間にちょっとした感動を覚えた。
結局、蝶ヶ岳から徳本峠までのすれ違いはわずか2人だった。
かつて芥川龍之介や高村光太郎など文人も歩いたことがある歴史のある峠
大正から昭和・平成を経て令和の4世代百年を迎えた小屋
徳本峠より明神方面に下山しても時間に余裕はあったが、それだとTJARの参加条件(標高2000m以上のキャンプ指定地)から外れるため予約をしていた徳本峠で宿泊することにした。
人生初のツエルト泊!
小腹がすいてきたので早めの夕食とした。
本日のディナーはカレーメシ。ジップロックにあらかじめ入れ替えていたため、お湯を入れて混ぜるだけ、手間もゴミも減らせるのでGOOD!
今回は軽量化のため固形燃料を必要最低限のみ持参したが、思ったよりも風が強くて完全に水が沸騰しないまま終了・・・
小屋にお湯をもらおうかと考えたがTJARのルール(山小屋での水以外の飲食物の購入禁止)のため諦めて体感50℃ぐらいのお湯をジップロックに入れてひたすら混ぜるが、ルーが溶けないため最終的に脇下で温めてルーを溶かす作戦に。
10分ほど粘るが全然溶けなかったので諦めて食すが、溶けきらないルーの濃さにノックダウン。
ここまでの山行計画はほぼパーフェクトだっただけに最後で計画を狂わされた。
お口直しにカロリーメイトを頬張り満足。
やがてガスがかかり始め、19時半には就寝した。
DAY2 ~徳本峠から明神へ下り、表銀座コースを逆走して中房温泉へ~
お昼頃には下山したいので、逆算すると1時15分起床、2時出発の計画だ。
朝食はカロリーメイトをかじりつき、撤収を終えて1時50分に出発。
今日も天気は良さそうなので、昨日とドライレイヤー®を変えて人体実験をすることにした。
ナイトハイクは涼しくて気持ちいい
開店前のためソフトクリームはお預け
横尾までは一人もすれ違わない静寂なナイトハイクを満喫。
林道歩きは少々うんざりすることもあるが夜明けとともに気分もアガる↑。
槍沢ロッジに到着したころには人が少しずつ動き始めていた。
今日も晴天の予感!
平坦な道から徐々に登りとなり、心拍も高くなる。
余談だが、ランニングを本格的に始めてから高性能GPSウォッチを導入し、運動中は常に心拍管理を徹底している。
今回の山行では登りで心拍140回/分を超えないように徹底していたが、気が付けば150回/分近くまで上がっていた。
今日の天気と行程が楽しみで自然とペースが上がっていたのだろう。
そうこうしているうちに槍ヶ岳から下山してくる登山者とすれ違うようになるが、標高が高くなればなるほどレインウェアの着用率が高い。
悪い予感がする。
こりゃダメだ
レイヤリングの人体実験にはぴったりな天候。
本日はドライレイヤー®ベーシックのソックス、ボクサー、ノースリーブを着用。
クールと迷ったが、運動強度が低いのでベーシックをチョイス。
標高2700mあたりからガスの中へ突入。
気温は低くないが、風が強いので体感温度は思ったよりも低い。
こんな時、ドライレイヤー®ベーシックの安心感は半端ない。
心眼!目の前に槍の穂先が見えるぜ・・・
7時すぎに槍の肩へ到着。
当初の予定では槍ヶ岳山荘でまったり朝食タイムと思ったが、小屋前は暴風雨で厳しく、小屋内は大勢の登山者で賑わっていたのでパス。
こんな天候なので槍の穂先は次回にお預けとした。
ここでも元気づけのためカロリーメイトを頬張り出発。
東鎌尾根の上部はまだガスの中
有名な3段ハシゴ。逆走のため今日は登り
このあたりから表銀座を縦走する登山者とすれ違いが多くなる。
槍ヶ岳の気象状況について質問されることがあったので、雨男(私)が通過したので安心してくださいと伝えた。
このハシゴを登れば西岳まであとわずか
ヒュッテ西岳に到着すると晴れ間も広がりつつあるのでここで大休止とした。
今回の行動食を紹介すると、ご存知の通りカロリーメイト(40本)のほか、柿ピーやゼリーなど嗜好品を含めて5500kcal分を持参(行動用5000kcalと予備500kcal)。
あくまで山小屋での水以外の飲食物は購入禁止としていたため、残りの行動食を確認すると1500kcal残っていた。ここまでは計画どおり。
なお、今回の山行で水の補給は常念小屋1L・徳本峠1.5L・横尾1.5L・槍ヶ岳山荘1Lの計5Lで足りた(個人差、気象条件によって異なる)。
目の前に広がる絶景を眺めながらのカロリーメイトは格別。ガスも取れはじめたので大天井ヒュッテに向かい出発。
ここから今日のハイライト。
やっと槍が見えたよ!
表銀座コース逆走とはいえ、進行方向左手には槍から裏銀座方面が良く見渡せる。
ここまで歩いてきて本当に良かったと思える瞬間であり、ようやくここに戻ってきたなと実感した時だった。
昨日暴風雨の中歩いた大天井は遠い過去のようだ
そして常念がどっしりと構える
贅沢な2日間をいただいた妻には感謝でしかない。
お土産は何を買おうかなと考えているうちにびっくり平へ到着。
何がびっくりか分からずググる
ここからは稜線直下の巻き道を進むため、西側の景色とはお別れ。
ダケカンバ林に入り、しばらくすると大天井ヒュッテに到着した。
ここで前日に登山口解散をした友人に連絡をすると合戦小屋にいることが判明。
中房温泉で合流できるかもしれないと思い、急いで支度をして出発。
現在の時刻は10時15分
ここから中房温泉まで2時間30分で歩けば合流できる計算だ。
大天井岳をトラバースして次行く燕山荘をロックオン。
燕岳までのこの稜線が好きだ
切通岩を過ぎ、細かいアップダウンを繰り返していると突然、我らのアイドル登場
親子で登場。愛くるしいぜ
しばらく立ち止まるが避けてくれないのでそっと進むとしばらく先導してくれた。ありがとうライチョウさん。
燕山荘が近づくにつれ、今回の山行に終わりが見えてくる。
燕山荘からの定番ショット
昨日とは打って変わっての景色
燕山荘に到着するとたくさんの登山者で賑わっていて、みなさん本当にいい表情をされていた。グループ山行が多く、単独行には若干アウェイ感が漂うのは気のせいか。
最後にこの景色を目に焼き付ける
燕山荘で妻へお土産を購入したら下山開始
日曜日のお昼前で多くの登山者が登ってこられるので今年一番挨拶をしたかもしれない。
標高を下げると蒸し暑い。今まで快適温度帯に居たんだなと認識した。
予定より少し遅れて無事に中房温泉へ到着。
昨日、登山口解散となった友人と合流した後に山賊焼きを喰らうが、カロリーメイト漬けの身体にはニクとコメが五臓六腑に染み渡った。
天気に恵まれ(?)計画通りに歩けた最高の2日間だった。
次は餓鬼岳からスタートして常念山脈コンプリートも面白そう、あるいは馬場島から上高地も良さそうだなと夢を膨らませながら帰路についた。
ラミースピン®エアT
汗処理能力は抜群で、登りの滝汗も稜線の涼しい風をまとえばサラリと乾いてくれる。ずっと着続けていても体に張り付くような不快感はゼロだった。滝汗族の私はこれなしに歩き続けることはできない。
執筆者:販売促進営業課 辻本 浩久
入社年:2023年
大型ザックに大量の生食材を詰め込み1週間以上の長期縦走が好物だったが、子どもができてから時短のため山を走ることに目覚め、いつしかトレイルランナーに転向。2024年に初めて100マイルレースを54時間半かけて完走。ゆくゆくは長期縦走テント泊を目論む。