自分にとってベストなテント泊のウエア選びは、何より自身の経験を積みながらの試行錯誤が欠かせません。それでは、経験豊富な山のプロがどんなことを考えてウエアを選んでいるのでしょうか。 そこにはテント泊を安全に楽しむための知恵と工夫が詰まっていました。
安全にテント泊登山するためには体温を保つことが、なによりも大切です。その体温を保つためにできることは、「歩く」「食べる」「着る」の3つだけです。
「着る」ことで防げるはずの「寒さ」や「濡れ」による体温低下は、判断力の低下や筋肉の緊張を招き、山岳リスクの原因になります。安全登山のために、体温を保つウエアを選びましょう。
日程の長いテント泊登山でも、行程の短い日帰り登山でも、基本のレイヤリングに大きな違いはありません。
トップスは、肌から汗を離すことを最優先に考えて、「ドライレイヤー」の上に吸汗性の高い「ベースレイヤー」と「ミッドレイヤー」を重ね着します。汗を乾かしてくれるウエアがしっかりと機能しないと、汗冷えや濡れで体温低下をおこしてしまいます。
そしてもちろん、雨が降ってきたときのために防水透湿性の高い「レインウエア」を携行して濡れを軽減し、ボトムスには足上げしやすく、蒸れを逃がしやすい「トレッキングパンツ」を着用しましょう。
しかし、テント泊登山では、基本のレイヤリング以外にも必要なウエアがあります。
朝晩冷え込むテント場などで体を保温する「防寒着」や快適に歩き続けるための「着替え」など、歩いている時には使うことが少なく、バックパック内で荷物になるウエアもたくさんあります。
テント泊登山を安全に歩くための「着る」には、トラブルに備えることも必要です。ケガや緊急時に備えてファーストエイドキットやツエルトの携行は基本中の基本。見落としがちなのは、ウエアのトラブルです。
テント泊登山中に、急な雨でずぶ濡れになってしまったり、転倒してウエアが破れたり、長く着ていたレインウエアのファスナーが壊れたりと、ウエアのトラブルが起きることも少なくありません。
レインウエアにトラブルが起きると雨天でのリスクが高くなるため、早急に下山しなくてはいけない状況になることもあります。
ウエアのトラブルにも対応できるように、それぞれに予備のウエアを用意できるといいのですが、テント泊登山ではバックパックの重量は少しでも軽量化したいところ。持っていくウエアは厳選しなくてはいけません。
それでは、軽量化にも気を配りつつ、トラブルに備え、安全に下山するためのウエアを選ぶにはどうしたらいいのでしょうか?
ファイントラックのスタッフで、日本山岳ガイド協会認定の登山ガイドⅡの資格も持つ平川陽一郎さんのウエアの選び方を見てみたいと思います。
平川さんは、ファイントラックの直営店「TOKYO BACE」を拠点に、全国で年間100回以上の講習会を行ういわば教えるプロガイドです。
リスクに備えながらもバックパックの重量を抑えるためには、トラブルが起きたウエアの代わりもできるような機能を持ったウエアを選ぶこと。そのポイントは2つあります。
POINT
この2つがあると、突発的なウエアのトラブルにも対応できます。
ダウンウエアなどの防寒着のトラブルとして多いのが、雨やテント内の結露で濡れて、保温力がなくなってしまうこと。特にテント泊登山は、山ごはんの料理中やテント内で水をこぼしてしまうなど、日帰り登山よりも濡れるリスクが高まります。
防寒着なしでは、気温が0℃近くなる稜線のテント場などでは、凍えてしまいます。
濡れのリスクに備えて、「濡れに強い」化繊素材の防寒着を選びましょう。
これまでダウンは軽量コンパクトなために登山の防寒着として選ばれてきましたが、いまは化繊素材でも同じくらい軽量コンパクトな防寒着があります。
軽くて濡れに強い防寒着ならば、行動保温着としても着用できるため、ウエアの荷物を軽量化することもできます。
レインウエアは、雨などでぬかるんで滑りやすくなった登山道で転倒したときに、尖った岩や木の枝などに引っ掛かって破れてしまうこともあります。
また、長く愛用したレインウエアの劣化に気付かず、登山中にファスナーが破損したり、生地の劣化で漏水してきたりと、レインウエアとして機能しなくなってしまうこともあります。
雨を防げずに着ているウエアが濡れてしまうと、体がどんどん冷やされていき、足がつりやすくなるといったトラブルの原因にもなります。さらには、低体温症になってしまうキケンもあります。
ウィンドシェルをテント泊登山に持っていく場合は、レインウエアが使えなくなってしまうリスクを軽減するため、防水メンブレンが入ったウィンドシェルを選んでおけば、万が一のレインウエアのトラブルにも対処可能です。
防水メンブレンが入っていれば、シームシーリング(縫い目の目留め処理)がされていなくても、雨の浸入をある程度は防げます。
トラブルが起きてしまったレインウエアの下に、防水メンブレンの入ったウィンドシェルを着用すると、雨に濡れることを軽減でき、体温を守ることができます。
トレッキングパンツは、雨で濡らしてしまうトラブルが起きます。
雨が降っていても目的地が近かったり、「ちょっとの雨なら…」とレインパンツを穿くのを面倒がりそのまま歩いてしまったり、突然の雨でレインウエアを着るまでの間にいつの間にかずぶ濡れになんてことになります。
また、料理や食事中に水をこぼしたり、ちょっとした徒渉などにも濡れのトラブルは潜んでいます。
雨に濡れたトレッキングパンツは足に張り付いて動きにくいうえに、体温を奪っていきます。
トレッキングパンツが濡れてしまったトラブルに対応できるように、快適な履き心地のレインパンツを選びましょう。雨の日以外にも、レインパンツは活躍します。
トレッキング代わりに穿けるほど快適なレインパンツを選ぶポイントは3つ。
POINT
登山の必須装備であるレインパンツも選び方次第で、トレッキングパンツの万が一のトラブルに対応できます。
どんなに気を付けていても、雨や登山中の汗などでウエアは濡れてしまいます。たとえ吸汗速乾性の高いベースレイヤーやミッドレイヤーを着ていても乾くまでには時間がかかります。
もし、ウエアが濡れた状態で遭難して、ビバークしなければいけない状況になったら…。日が落ちてぐんぐん下がる気温の中、濡れたウエアでは体温がどんどん奪われていき、たとえツエルトを被っていてもリスクがとても高い状況になります。
いざというときのビバークを想定して、濡れを肌から離すことができる撥水性のあるドライレイヤーはエマージェンシー装備としても役立ちます。メッシュ生地で軽いドライレイヤーならコンパクトに携行できます。
たとえ乾いた着替えがなくても、ドライレイヤーを濡れたウエアの下に着るだけで体温低下を抑え、ベースレイヤーが乾くまで耐えることもできます。
さらに、エマージェンシーシートやツエルトで外気温から体を守れば、緊急時のリスクを軽減できます。
ケガや緊急時だけではなく、ウエアのトラブルにも大きなリスクが潜んでいます。万が一を想定して、リスクヘッジができるウエアを選びましょう。
また、トラブルを未然に防ぐことも重要です。登山の10日前くらいに余裕をもって準備をしましょう。破れやほつれはないか、ファスナーはちゃんと動くかなどを点検しながら準備ができ、必要があれば買い替えることもできます。
リスクを想定し、対応できる準備をしておくと、テント泊はもっと安全に快適に楽しくなります。
中綿に採用したfinetrack独自のシート状立体保温素材「ファインポリゴン®」は水分を保水しづらくロフトがつぶれにくいため、万が一濡れてしまったときにも保温力をキープします。通気性の高さで乾きも速いのでテント泊では積極的に使いたいアイテムです。
ポリゴンULの機能
ポリゴンULのfinetrack独自のミッドシェル専用の防水透湿素材「エバーブレス®エア」を採用し、表裏をニットでラミネートしたウィンドシェル。小雨程度なら問題なく防げる耐水性を持っているため緊急時にはレインウエア代わりにも。レインウエアなどのアウターシェルとレイヤリングするダブルシェルで悪天候でも雨の浸入を許しません。
フロウラップ®の機能
フロウラップ®の独自の防水透湿素材「エバーブレス®」を使ったレインウエア。その高いストレッチ性でまるでトレッキングパンツの様に穿けるレインパンツは突っ張りを感じず軽快な歩行をサポートします。肌当たりのいいニットの裏地はサラリと快適で雨でも晴れでも活躍するレインウエアです。
エバーブレス®フォトンの機能
エバーブレス®フォトンの僅か46gのドライレイヤーは撥水加工により汗や水を寄せ付けず、濡れ戻りを大幅に軽減してくれます。バックパックにお守りとして忍ばせて、ウエアを濡らしてしまった時に内側に着込めばでも温かくドライな状況を提供します。ビバークはもちろんテント泊の着替えとしても活躍する撥水アンダーウエアです。
ドライレイヤー®ベーシックの機能
ドライレイヤー®ベーシックの