開発の現場からvol.2 ふぞろいな糸
目には見えないミクロの世界の話ですが、スキンメッシュ®の糸を構成する繊維は、リーフ型、三角型、櫛型など大きさも形もふぞろいな断面形状をしています。メッシュ生地の上に美しい撥水玉ができるのは、この糸があってこそ。「スキンメッシュ®開発の現場から」2回目は、世界初の耐久撥水アンダーウエアを誕生させた、ふぞろいな糸のヒミツです。
100洗80点以上。
これは、スキンメッシュ®の耐久撥水性能(JIS-L1092法)を示す数字です。
新品時を100点として、100回の洗濯後も80点以上の撥水性能を維持することを意味します。この高いスペックこそは、スキンメッシュ®が「ドライレイヤー®」たるゆえんです。
汗でびしょぬれになっても、大雨でウエア内への浸水を許してしまっても、体温を奪われないためには、強力な撥水性が必須だったからです。それも、数回の使用や洗濯で損なわれない「耐久撥水」でなければ、登山用具として成立しないと考えました。
従来、撥水加工とはバックパックやテントといった布帛(織物生地)製品に施すもので、ニット(編物)に施すことは、特殊な技術を要するものでした。
「当時、オリンピッククラスの競泳選手がタイムを縮めるために着るスイムウエアに最新鋭の耐久撥水加工技術が採用されていました。スキンメッシュ®は、その最新技術を極薄のアンダーウエアに応用するというチャレンジングな試みでした」と生地開発でタッグを組んだユニチカトレーディングの田中潤氏は言います。
目指すのは、単に生地表面で撥水するのでなく、糸という糸が汗や雨を弾き、肌に濡れを寄せ付けないアンダーウエア。果たして、極薄のメッシュ生地に、耐久撥水加工を施すことは可能なのか……?
そこで登場したのが、ふぞろいな糸です。
大きさも形もさまざまな繊維で構成されたふぞろいな糸は「多種異形断面糸」と呼ばれます。出っ張りや細かな溝のある繊維構造は、毛細管現象を促進して汗を素早く吸い上げるためにつくられたもので、通常は吸汗加工を施して用いられます。
しかしスキンメッシュ®は、この構造を逆手にとりました。本来の用途とは逆の、耐久撥水加工に用いたのです。
一般的に撥水加工というのは、糸や生地を撥水樹脂にくぐらせる加工方法です。「出っ張りや凹みのあるふぞろいな糸のほうが、撥水樹脂がつく表面積が大きくなり、さらに、しっかりついてはがれにくいのでは?」というひらめきでした。すみずみまで撥水樹脂を行き渡らせ、さらに耐久性を高めるのに好都合と考えたのです。
一方で同じ頃、ユニチカトレーディングでは「多種異形断面糸が撥水耐久性の向上にプラスになるという知見を、ある程度得られていた」(田中氏)といいます。開発者のひらめきと生地メーカーの技術的な知見とが合致し、世界初の耐久撥水アンダーウエアの開発は進みました。
100洗80点以上を目指す長い開発の途中には、こんな紆余曲折もあったといいます。
「多種異形断面糸はコストがかかる。そこで、一般的な丸断面の糸でも100洗80点以上を目指したことがありました。まずまずの試作品ができたので、あえてそうとは言わず着用テストをしてもらいました。すると『なんか違う、これじゃない』という連絡が届いたんです。なんでバレたのかな(笑)。以後、多種異形断面糸以外の選択肢はなくなりました」(田中氏)
数値上のスペックはぎりぎりクリアしていても、着たときのドライ感で差が出る。ふぞろいな糸は、究極のドライ感を追求するスキンメッシュ®にとって唯一無二の素材だったのです。