2020年9月に発売したミッドレイヤー「ポリゴンアクト」は、雪山での行動中、快適に着続けられる行動保温着として、冬期・厳冬期のアクティビティで活躍します。
その開発において目指したものや、快適さを実現するメカニズムを開発担当者に聞きました!
開発担当者の紹介
芳本良輔
大学時代にワンダーフォーゲル部に所属。
北海道の山をホームグラウンドとして、山に入り浸る。特に日高山脈がお気に入り。
卒業後は一般企業勤務を経て、finetrackに入社。
積雪期は縦走登山、無雪期は沢登りなど、一年を通じて四季折々のさまざまなアクティビティを実践し、遊び手ならではの視点であらゆるギミックを盛り込んだ商品開発を手掛けている。
――「ポリゴンアクト」は冬期・厳冬期向けのミッドレイヤー(保温着)ということですが、それだけ保温力が高いということでしょうか。
芳本:寒いときに着る保温着ですから、もちろん保温力は大切です。実際、ポリゴンアクトの保温力はファイントラックのミッドレイヤーラインナップ中最も高いものとなっています。
ですが、温かい“だけ”の保温着では冬期・厳冬期のアクティビティを快適に過ごすことはできません。
この時期は行動中と停止中の体感温度の差が激しいことが特徴的です。
肌寒さを感じて着用したミッドレイヤーなのに、ちょっとした行動で暑くストレスに感じてしまったり、その結果かいた汗がなかなか乾かず、今度はだんだん冷たくなって身体を冷やしてしまったり。
……そんな経験、みなさんもあるのではないかと思います。
――あります。登りでは汗をかくほど暑くても、立ち止まるとそこはやっぱり冬の山。
冷たい風に吹かれて一気に寒くなったりします。
芳本:そうですよね。でも、だからと言って保温着を着たり脱いだりしてばかりいるとタイムロスを招くし、この時期のフィールドでは着脱が難しいシチュエーションも多々あります。
汗をかかないペースで行動し続けるのがベストですが、なかなかそれができる状況ばかりではありません。
しかしそれでも、冬期・厳冬期の山では保温着が欠かせません。
だからこそ、適切な保温力で体温を守るのはもちろん、それ以外にも…
「着用時のムレや汗冷えといった不快感・リスクを軽減できる」
「着脱を繰り返す必要なく、着ていることすら忘れられる」
…私たちがミッドレイヤーを開発する際には、そんな快適さを追求しています。
――ムレや汗冷えを抑えながら、着用ストレスのないミッドレイヤーですか。
その実現には具体的にどんな機能が必要なのでしょうか?
芳本:必要なのは「保温性」「通気性」「吸汗蒸散性」の3つの機能です。
これらがシーズンやアクティビティに応じてバランスよく備えられてこそ、快適な行動が可能になります。だからファイントラックでは、この3つの機能にこだわった商品開発をしています。
じつは、一般的なミッドレイヤーの場合、中わた素材を使用した中間保温着に汗処理機能を備える製品はほとんどなく、近年1つのカテゴリーになりつつある「アクティブインシュレーション」もその点は変わりません。
――「アクティブインシュレーション」と言われる中わた入りのミッドレイヤーは、通気性によって汗抜けを高め、快適さを保つという話はよく聞きますが、確かに吸汗性を備えるという話はあまり聞きません。
芳本:そうですね。それに対して「ポリゴンアクト」は中わた素材を使用したミッドレイヤーであるにも関わらず、通気性だけでなく吸汗性と蒸散性を備え、優れた汗処理を実現しています。これによってウエア内のムレや汗冷えをより軽減しよう、という発想ですね。
だから、ポリゴンアクトの「吸汗蒸散性」という機能は、ファイントラックならではのインシュレーションウエアへのこだわりなのです。
――ポリゴンアクトは従来品のドラウト®ポリゴン3の後継品だと聞きました。
芳本:はい。ドラウト®ポリゴン3も高い吸汗蒸散性を備えていましたが、それをベースにさらなる汗処理性能の向上にチャレンジしました。
――どういった点が変わったのでしょうか。
芳本:主に裏地の吸汗耐久性を向上させています。
これは専用に開発した裏地で、半永久的に吸汗する改質ポリエステルと、強度を備えつつ軽量なナイロン繊維を交互に編み立てたものです。それを高い通気性と肌に張り付きにくい点接触のメッシュ構造に仕立て上げました。
(裏地に水滴を垂らすと、すぐに吸われて拡散する。)
芳本:さらに表地には、軽量で適度な通気性を持つストレッチ布帛(織物)に、100洗80点の耐久撥水加工を施すことで、雪などによる濡れへの対応力を高めています。
――なるほど。ポリゴンアクトは中わた素材を使ったミッドレイヤーということなので、その表地と裏地で中わた素材を挟んでいるのですね。
芳本:はい。保温材にはドラウト®ポリゴン3にも採用していたfinetrack独自開発のシート状立体保温素材「ファインポリゴン®」を使用しています。
このファインポリゴン®がポリゴンアクトの汗処理メカニズムに大きく貢献しています。
極薄で軽量な特殊シート生地を、シワ加工で凹凸の立体構造に仕上げたファインポリゴン®は、通気性が良く、保水しにくいため、蒸発した汗の水分を素材に留めることなく、ウエアの外へと排出することができるのです。
(表地をカットしたサンプル。白く見えているのが保温材のファインポリゴン®。)
――汗はウエアの外側に排出されるまでにどういった道筋をたどるのでしょうか?
芳本:行動中汗をかいた際には、まずベースレイヤーが汗を吸い上げます。
そこからの汗の移行を示したのがこの画像です。
ベースレイヤーが吸い上げた汗を、優れた吸汗性を備えたメッシュの裏地が速やかに拡散させ、蒸発。蒸発した汗は気体となるのですが、この際にファインポリゴン®の通気性と保水しにくさが活躍し、スムーズにウエア内部を汗が通り抜けます。そして適度な通気性を持つ表地も汗が通り抜け、外側へと汗が排出されます。
このような仕組みでポリゴンアクトはかき続ける汗で濡れるベースレイヤーから継続して汗を吸い上げることができ、蒸気となった汗で蒸れてウエア内が飽和してしまうことを制御します。
これがポリゴンアクトがムレや汗冷えを抑える理由です。
また、ファインポリゴン®が保水しにくいということは、湿潤時でもロフト(嵩高さ)の低下を防ぐことができるということでもあります。雪や汗で濡れても、ロフトが低下しにくければ、さまざまな環境下でウエア本来の保温力を維持します。
――このような表地、保温素材、裏地の組み合わせによって、「ポリゴンアクト」の快適なドライ性能が実現したのですね。生地以外にも変わったところはありますか?
芳本:もちろん、行動中ずっと着続けられるウエアにするため、生地開発だけでなく、パターンや仕様にも工夫を凝らしました。
芳本:表地のストレッチ布帛の運動追従性をより高めるために、身体の動きに自然に馴染む立体パターンを模索しました。特に腕部分は、雪山での動きを前提としたこだわりの設計を採用しています。これが生地の軽さや汗処理性能に加えて、着ていることを忘れるほどストレスのないウエアの形成に貢献しています。
芳本:また、ファイントラックのアイコン的な機能のリンクベント®を備える他、ドローコードで温度調整できる裾や、冷気の侵入を防ぎ、腕まくり時にもずれ落ちにくい袖口など、細部にもこだわり使いやすさを追求しました。
――スタッフたちがフィールドテストする際はもちろん芳本さんもテストしたかと思いますが、実際に冬のフィールドで使った際の感触はいかがでしたか?
芳本:「ポリゴンアクト」のフィールドテストには、冬期中央アルプスを選びました。標高を一気に上げる急登、集中を必要とする雪稜や岩稜帯、四肢を大きく動かすクライミングシーンなど、強風が吹き荒れる氷点下でも大量の発汗を伴うハードなフィールドです。
芳本:まず感じたのは、余分なもたつきがなく、軽い着用感です。
登りでは生地の通気性が余計な汗を抑えてくれます。そして多量の発汗を伴う運動シーンでも汗処理機能が効果的に働き、汗冷えで寒くなる不快感はありませんでした。
芳本:また、長時間の行動ではウエアの重量やもたつきすら気になることがありますが、軽量性とフィット感にこだわった「ポリゴンアクト」は、着ていることを忘れてしまうほどの自然な着心地の良さが得られた、と感じました。
雪山での行動に必要な温かさとドライ性能、そしてストレスフリーの着心地を実現した「ポリゴンアクト」の完成です。「アクト=行動」の意味通り、行動時の快適な着用感を追求した新しいミッドレイヤーです。雪山でのハードな遊びを下支えするみなさんの相棒として、ぜひお試しください。