日本三大急登の一つに数えられ、登山口の尾白川渓谷から甲斐駒ヶ岳まで標高約差2,200mのロングコースとなる黒戸尾根。その7合目に位置するのが南アルプス・甲斐駒ヶ岳 七丈小屋です。
七丈小屋の運営者として、また登山家・山岳ガイドとして幅広く活躍されている花谷泰広さんが、小屋に常備しているというアウターシェルについてお話を伺いました。(finetrack編集部)
七丈小屋の運営を始めて4回目の冬。
今年は感染症対策の観点から宿泊の受け入れ人数は3分の1に減らし、一方で清掃や消毒といった手間は増加するなど、小屋の運営の在り方が大きく変わった1年でした。
[2020年5月の七丈小屋の様子]
ただ、そんな中でも標高差が大きく水場もない…といったハードなイメージのある黒戸尾根は、もともと若年層が多いためか登山者の数に大きな変動はなく。
クリスマス以降は小屋も満室の日が出て、冬季の甲斐駒ヶ岳黒戸尾根ツアーも現在すべて定員を満たしていたりと、登山者の方が冬休みに向けて計画を立てている様子がうかがえます。
[2019年の冬季甲斐駒ヶ岳黒戸尾根ツアーの様子]
とは言え、一般的に夏よりもウイルス感染症が流行しやすいこともあって、不安もたくさんあるこの冬。小屋を営業すること、ツアーを実践すること自体が僕にとっては大きな挑戦です。だけど来年以降もすぐにコロナウイルスが消えてなくなるわけではないだろうから、今年小屋を営業する中で得た経験はきっと今後のための大きな礎となるはずです。
僕が冬季甲斐駒ヶ岳黒戸尾根ツアーのガイドの際に使っているアウターシェルが、ファイントラックのエバーブレス®アクロ。昨シーズンから使い始め、以来小屋に常備しているシェルです。
気に入っているところは、生地がストレッチして動きやすいこと、そしてジャケットのベンチレーションの位置が秀逸であること。このベンチレーションはザックのベルトに干渉しない場所にファスナーがあって開けやすいから、「リンクベント®」として活用しなくても充分に便利です。
ちなみにパンツのベンチレーションも良くて、何が良いかと言うと、開く場所を自分で調整できるところ。一般的なパンツのベンチレーションは多くが上からしか開けられず、ハーネスを付けていると「使えないじゃん」ってなるんですよね。
でもこのパンツはファスナーの引き手が4個あるから、ハーネスの下側に引き手を調整しておけばベンチレーションを楽に開けられるんです。
これはやっぱり海外とは違って湿雪をかき分けて汗をかいちゃうような「どラッセル」を余儀なくされる日本の山の特徴をよく捉えている人がデザインしたからこそ創れる機能だと思いますね。
[上下4つのダブルアクションファスナーがハーネス着用時のベンチレーション解放に便利(写真:finetrack編集部)]
あと地味に嬉しいのが、フロントファスナーの開閉がスムーズなところ。やっぱりこういうちょっとしたことでストレスがないのは嬉しいです。
かゆい所に手が届くエバーブレス®アクロ。でも中立的な立場から言うと、かゆい所に手が届きすぎちゃってる感じもします。これは日本人の几帳面な性格によるものかもしれないけど、例えばジャケットには胸ポケットがあればハンドポケットはいらない、パンツの両脇にファスナー付きポケットははいらない…とか。
たくさん盛り込んだこれらの機能を少し引き算してみることで、完成度をより高められるだろうと思っていて、そこは今後に期待しています。
それぐらい雪山に必要な機能を多分に盛り込んだアウターシェルだから、吹雪を避けて天候の良い時にだけ山に入る人や、里山で雪を楽しむ人などにはきっと使い切れない機能もたくさんありますね。
だけどその分すごく重厚で、耐久性も高い。そこがエバーブレス®アクロの一番の魅力です。
これだけ堅牢な創りなら、山岳部の学生が大学1回生の時に買って、卒業まで使ってもまだ使えるんじゃなかっていうくらい頑丈。
山の道具は耐久性があってこそ信頼を持って使えるものなので、これは何より嬉しいですね。
そんなエバーブレス®アクロは、複数の日程をかけて長い登山、長期縦走をするような人にとっては途中で天候が崩れて過酷な環境に身を置くことになったとしても安心感のあるウエア。
だからちゃんとした雪山に入る人…と言うと語弊があるかもしれませんが、これから標高の高い雪山や、過酷な豪雪地帯で「長期間の縦走をしたい」、「ワンランク上のシビアな登山をしたい」と思っている方にはとてもいい相棒になるはずです。
今年は山登りをすることに悩んだ人も多いのではないでしょうか。僕としては「自分の日々の体調管理や行動管理を慎重にしていて、出かけた先でも感染対策に余念がない」…そんな人たちなら住んでいる場所に関係なく、ぜひ山に出かけてほしいと思っています。
山好きな人たちにとって山登りはすごく大事なもの。大好きな山に行くことで仕事にも人生にもプラスになることを思いつくだろうし、今年の冬の景色は今年にしか見られません。
だから気を付けるべきことをしっかり実践できるなら、「今年は我慢しなきゃダメかな?」と思わず雪山を楽しんでほしいです。うちの小屋も通年営業してますよ!(笑)
(取材日:2020年12月3日)
■甲斐駒ケ岳 七丈小屋
甲斐駒ケ岳黒戸尾根登山道の7合目にある山小屋。
標高:2,400m。
収容人員:第1小屋(8人)第2小屋(6人)※2020年冬季営業期間の情報です
テント泊:最大約15張り*キャンプ指定地
■ご紹介いただいたアイテム
タテヨコに伸びる異次元ストレッチ性を備えた防水透湿素材エバーブレス®をメイン素材に使用。強靭な生地と圧倒的な動きやすさが特長の冬期アルパイン用アウターシェルです。(finetrack編集部)
登山家・山岳ガイド・山小屋管理人
花谷泰広
1976年兵庫県神戸市生まれ。幼少から六甲山で登山に親しむ。1996年にラトナチュリ峰(ネパール ・ 7035m)に初登頂。以来、世界各地で登山を実践。2012年にキャシャール峰(ネパール・6770m)南ピラー初登攀で、ピオレドール賞を受賞。2015年より若手登山家養成プロジェクト「ヒマラヤキャンプ」を開始、2017年より甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の七丈小屋の運営を開始するなど、国内外で幅広く活動中。(日本山岳ガイド協会認定・山岳ガイドステージⅡ)