近年、紀伊半島にある大峰山脈のアイス開拓が、一部のクライマーで盛り上がっている。
本山行では、その一部のクライマーが目をつけていた、おそらく冬期未登であろう、大峰イブキ嵓谷の黒滝を登ってみた。
計画としては、初日(18日)はアプローチ&偵察、翌日(19日)に登攀であったが、余裕があればおかわりして、お隣の明ケノ明星もご馳走になろうという話だ!
■アクティビティ日
2025年1月18日~1月19日
舟ノ川・ヒウラ谷二俣に車を置いて、明星ヶ岳への尾根に取りつく。8時行動開始。
ここから1383mの緩斜地の幕営地まで上がる。1325m地点から右に黒滝が遠く見える。氷結は極悪に見えた。帰りに気付いたが、左には明ケノ明星が立派にそびえていた。
10時過ぎに幕営地に到着し、11時頃から黒滝に向かった。誰も行くはずのない道にはピンクテープとシカの足跡、下る尾根にもそれは続いていた。「シカに初登を奪われてしまうのではないか」と不安になってくる。
イブキ嵓谷まで下り、黒滝に着いたのは15時過ぎ。
でかい。いかつい。男性的である。陽当たりは西面のため良好であり、氷はかなり緩い。「アタックは明日だな」と思っていたが、イケイケクライマーの三宅が「1ピッチで上まで2時間くらいだから、ギリギリ降りれるだろう」ということで早速トライすることに。念のため全員ヘッドライト装着。誘ったからにはリードしたいので、ここは私、森本がリードする。
ポカポカアプローチ
遠く黒滝が見える
明ケノ明星。けっこうデカい。
辿りついた黒滝。かっこいい。惚れる。
【1ピッチ目:森本】
右の凹角が弱点とみた。登りだしてみると、やはり氷は緩いが分厚く育っていた。左からは水がジャージャー降ってくるうえ、ツララミサイルがたまに飛んでくる。アックスをたたくとドン!と破断音がする。恐ろしい。凹角まで入ると、デリケートなツララに囲まれるうえ、水が流れていてビチョビチョになる。適宜、氷柱破壊作業をしながら登っていく。1ピッチで上部まで抜けるつもりだったが、スクリューが不足し、右テラスでピッチを切る。日没が迫り、焦り始める。
西日が照らす。日没迫る。
1P目フォロー
【2ピッチ目:三宅】
出だしがボルダリー、抜け口はバーティカルの高度感あふれるピッチ。正直、おいしいところを取られた気分だ。出だしはやはり苦戦している。足が切れて足ブラになったが、なんとか耐えてくれた。この氷質で落ちられるのは勘弁願いたい。
本人、足が決まらず苦戦しながらも、高度を上げる。日が暮れ始め、ヘッドライトを点けての行動となる。
抜け口まで上がったそのとき、足が抜けてフォール。「まじか!」と焦ったが、スクリューは抜けなかった。こういったコンディションではスクリューを多く打っておく必要がある。今回もそれが功を奏した。
スクリューがなくなったため、やむを得ずピッチを切る。想定外の3ピッチとなってしまった。
出だし苦戦中。
日が暮れた…。
寒い。耐える。この後フォール。
【3P目:赤見坂】
完全日没で残業確定である。抜け口まで残り10mほどと短いため、続登を決意。
ビレイ点が落ち口直下なので、落氷がひどい。最終ピッチはスカ雪氷のアルパインチックなピッチであった。氷質が悪く、ランナウトは必須か。
40~50mほどロープを出してビレイ解除。終了点は木。トップアウトはとても気持ちがよかった。
闇夜に進む
スカ雪氷
記念写真
木+アバラコフで懸垂をして取り付きへ下降し、幕営地へ戻った。
この日は気温が高く、雪は少なかった。それでも、往きになかったはずのデブリがあり、大峰でも雪崩れるのかと驚いた。どこでも雪崩に遭う可能性はある。気象条件を慎重に選んで行動するなどの対策を欠かさないようにしようと思った。
もちろん余裕なんてないので、明ケノ明星は諦めて、明日は遅く起きて下ろうという話となった。
夕飯を食べ、水を作って、溶けるように眠りについた。
登攀ライン
アプローチ参考
【登攀装備】
ハーフロープ60m x 2
スクリュー計15本程度。アルパインヌンチャク。
エバーブレスアクロジャケット
背面に配置されている伸縮性のあるエバーブレスニット生地や、裾のずり上がりを防ぐパウダーハーネスによって、身体全体を大きく使うアイスクライミングで快適にアクティビティを楽しむことができた。
執筆者:生産管理課 森本 嗣史
入社年:2024年
受験勉強の合間に図書館で見た山岳写真集に惚れた勢いで登山を始める。
水が怖いので沢は苦手だがオールシーズン何でもやっている。近年は特にクライミングが楽しい。ご当地デカ盛り定食開拓にもハマっている。