アルプスでは9月中旬から、木々も草もいっせいに赤や黄に色づき始め、みるみる全山が秋色に染まります。その光景は、大自然ならではのスケール。登山者なら誰しも、壮大な紅葉の山にたたずみたいと願うものです。
一方、気温が低く、風も冷たい秋山では、防寒の備えを怠ると「低体温症で動けない」「途中撤退を余儀なくされる」といったリスクが夏山以上に増大します。
美しい紅葉の山を、寒さに震えることなく堪能するための防寒のコツ、それは意外にも、保温だけに捉われないことです。保温も大切ですが、行動中に温度調整がしやすいウエアを選んだり、「着すぎ」への注意も、とても重要。保温を優先し過ぎて、思わぬ弊害が生じないように、正しい防寒対策を知って秋山を快適に歩きましょう。
ちょうど9月の連休を迎えるころ、finetrackにはこんなご質問がよく寄せられます。
「秋山にちょうどいい防寒着は?」
「紅葉登山に何を着ていけばいい?」
天候や時間帯によって、ときに寒く、ときに暑くもなる秋山は、夏でも冬でもない複雑な環境。
この季節、ウエア選びに迷う人はとても多いです。
秋山で快適に歩き続けられるウエアを知るために、まず、秋山の環境を理解することから始めてみましょう。
山の気温は、「山が寒い理由」の記事で解説した通り、平地で想像する以上に低いものです。
そこで掲載した「代表的な山の最低気温の目安」をここでも再掲します。
代表的な山の最低気温の目安(月別平均/℃)
これで見ると、9月の標高3000m級は最低気温0度近く。10月になると最低気温は氷点下に達しています。
秋のアルプスは、平地の真冬以上に寒いことが分かります。
[ 参考資料 ]国立天文台編 -理科年表 平成27年版-
※それぞれの山頂での温度をもっとも近い気象観測地点のデータをもとに算出。
平地では心地よい気温なのに、稜線付近では極寒という環境が、多くの登山者の装備選びを困難にし、登山を始めたばかりの初心者の遭難や事故を誘発することがあります。
秋山と夏山の環境の違いは、単に「気温が低い」だけではありません。
その違いはもっと多様です。
ざっと書き出してみると・・・
これらは、秋山環境の複雑さを物語っています。
対策も一緒に書き出すと、こんな感じになります。
秋山のウエア選びでは、防寒はもちろん、防風や温度調整のしやすさといった視点も大切ということが見えてきました。
気温が低い。
日なたはあたたかくても、日陰は寒い。
朝晩の気温差が大きい。
こうした秋山の環境では、休憩時だけでなく行動時にも保温着を着る場面が想定されます。
そのため「ただ温かい」だけの保温着を選ぶと、パフォーマンスの低下や汗冷えを起こし、楽しいはずの秋山登山は失敗してしまいます。
例えば、汗を吸わずに濡れるフリース、通気性が殆どなく汗が結露するダウンジャケットは危険です。これらは、休憩時の保温には有効なのですが、行動中に着る保温着としては蒸れて不快だからです。結局、寒さを感じながらベースレイヤーのまま歩くか、蒸れをガマンして保温着を着て歩くかの二択を迫られては、紅葉どころでなくなってしまいますよね。
そのほか、必要以上に分厚い保温着を着てしまい、結局汗だく・・・というのも、よくある失敗です。
蒸れやすい保温着、温か過ぎる保温着は下に着たベースレイヤーを濡らす原因にもなり、汗冷えのリスクもはらみますので注意が必要です。
秋山に合った行動保温着とは、保温力があり、かつ汗冷えしないウエアです。
秋山の保温着には、行動時に蒸れないものを選びましょう。
ポイントとなる機能は、汗を処理する「吸汗性」、蒸れを排出する「通気性」です。これらを備えた保温着なら、行動時も休憩時も快適に着られ、とても理にかなっています。
最近では、換気口となるベンチレーションやメッシュ製のポケットを備えている保温着もあります。これらは、歩きながら換気がコントロールできるので、面倒なウエアの着脱を減らす意味でも、秋山ではより有効な選択肢になりますね。
秋山が寒い理由のひとつは、風が冷たいことにあります。
風が吹くと体感気温はグッと下がり、風の強い稜線や気温の低い日陰では、震えるほどの体感気温となることも。
この寒風をいかに攻略するかも、秋山を快適に歩くコツです。
ポイントは2つ!パンツと小物です。
夏に愛用していた薄手のトレッキングパンツや短パンを、秋冬仕様の防風性の高いパンツ(長ズボン)に変えるだけで、ぐっと快適性が増します。
例えばこんな場面。
風速5メートルの風が吹き、普通なら体感温度が5度下がる場面で、その風をトレッキングパンツ単体である程度ブロックできれば、どれだけ快適で安全でしょう。
簡単に脱ぎ着ができる上着と違って、パンツは脱ぎ着がしにくい。
だからこそ、快適安全を左右する基本性能をしっかり押さえておきたいですね。
夏山では軽快な行動ができるショートパンツとサポート性能の高いタイツを組み合わせたスタイル。この組み合わせは秋山では危険を伴うことがあります。
寒暖差の大きい秋山でも稜線へのアプローチ中の運動負荷は高く、大量の汗をかきます。その汗は肌と密着しているタイツに吸水されます。そして稜線に出たとき、寒風により一気に冷やされて脚が攣ることがあります。
岩場などでは転倒・滑落の危険があるため、低気温の状況を想定できる山では防風性のあるロングパンツがおすすめです。
最高の景色なのに、カメラのシャッターを押す指がかじかんでしまう。
稜線で風に当たり続けた片方の耳だけ感覚がなくなるほどに冷たい。
こうなってしまうと、いくら目の前に絶景の紅葉が広がっていても、それどころでなくなってしまうもの。
冷たい風に備えて、グローブ、ビーニー(ニット帽)は必携です。
グローブは、悪天にも備えて、防水性を備えたものを用意すると安心ですね。
また寒風にさらされると、唇の乾燥やしもやけに悩まされることも。下山後のご当地グルメを楽しみたいなら、リップなど唇を保護するアイテムもお忘れなく。
意外かもしれませんが、秋山の防寒では、ウエアを「着すぎ」ないことも大切です。
寒さに備えようと、つい保温力の高いウエアをたくさん着てしまいがちですが、実はそれが汗をたくさんかく原因になってしまい、寒さを感じる悪循環になってしまうからです。
例えば、
ちょっと休憩しただけなのに、ブルッと身震い・・・
絶景ランチ中、防寒着もアウターシェルも着たのに、まだ寒い・・・
こうした原因の多くは、じつは「汗」にあります。
登りでかいた汗が肌にとどまって、しだいに冷やされ、体温を奪っていくのです。
いわゆる「汗冷え」です。
気温の低い秋山では、「汗冷え」は夏山以上に深刻です。
朝晩の気温差が激しく、天候の急変も多い。そうした環境下で身震いするような「汗冷え」を感じることは、低体温のリスクを深めます。
汗をかきすぎて「汗冷え」を起こさないように
を心がける必要があります。
「着すぎ」かどうか分からない、ウエアを脱ぐタイミングが分からないという人は、汗かき具合をバロメーターにするのがおすすめです。
額に汗がにじんでいるとき、背中や胸周りの体幹部分にじっとり汗がにじんでいるときは、ウエア内で蒸れが始まっています。ウエアの中に手を入れると、モワっと生温かい湿度を感じるはずです。
そんなときは、上着を脱いだり、ファスナーを開けて換気したり、運動量を弱めたりしてウエア内の温度を下げ、できるだけ汗をかきにくい環境に近づけるのが正解です。
とはいえ、汗をかかずに登山をすることは不可能ですよね。
運動し続ける以上、身体は汗をかいて体温を一定に保とうとするからです。
どうしてもかいてしまう汗を、冷えや寒さに変えないために、保温や防風とは違った、もう一つの防寒対策があります。
それが、アンダーウエアです。
「汗冷え」は、肌にかいた汗が原因なので、いくら保温着を着込んでも、寒風をブロックしても、いっこうに寒さが収まりません。
「汗冷え」をなくすためには、汗が肌に残ったままにしないことが肝心。それをサポートするのが、登山用の「撥水アンダーウエア」です。
登山用に開発された「撥水アンダーウエア」は、肌から汗を離す機能を備えています。汗を拭き取ることや着替えを必要とせず、ベースレイヤーの下に1枚着るだけで汗冷えを抑えることができます。
「たくさん着こんでも寒い」
そんな心当たりがある人は、アンダーウエアを見直すことから始めるといいかもしれません。
冷えや寒さが、たった1枚のアンダーウエアで解決するなら、荷物も減らせ、お財布にも優しい。なにより、秋山を震え知らずで歩けたら、美しい紅葉をうんと満喫できますね!
登山で大量の汗をかいた後にブルっとくる震え。この「汗冷え」対策のために生まれた登山用のメッシュ下着です。
速乾性シャツの下に1枚着るだけ。finetrack独自の撥水技術で、汗冷え、ベタつき感、ニオイの解消に効果があります。
山に行くなら、まずこの1枚!
ドライレイヤー®ベーシックの機能
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